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蜂の死骸と不死身の言葉。
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「……、大丈夫だからな、…ちょっと横になろう、な…」
「……っはぁ、…っはぁ、…」
都の身体からはそんな荒い息とは別に肺の方からひゅうひゅうと気管の詰まるような嫌な音が聞こえる、……
とりあえず身体を安静にさせなきゃいけないと思い、全身の力を俺に預けていた都の身体を手で一度離してからアスファルトの道に仰向けにゆっくりと寝かせる。
平らな硬い地面に仰向けになった為、都の荒い呼吸が肺の上下によってさらに強く感じられた、。
、っとりあえず、早く、…っ、病院、……
そして俺は自分のポケットからスマートフォンを取り出して緊急の電話番号を急いで打ち込む、…
…カタカタカタカタカタカタカタ、……
…………………、あ、………………
…自分でそのスマホに打ち込んで初めて気がついた、
………指が、……番号を押す自分の右の親指が、……震えて、…うまく番号を押すことができない、……
「…………………、っ、」
、それはまさかの事で、……今までの人生の中でこんな無意識に震えて、他の事に支障をきたすような事なかったから一瞬そんな自分が信じられなくて声を失ってしまった、。
それでも電話をかけなくてはと思い、その手からの振動でカタカタと震えるスマホをもう片方の手で押さえながら必死に、ゆっくり丁寧に番号を押し込むように打つ。
prrrrrrrrーーーー……ガチャ、
電話の向こう側でそんな呼び出し音と受話器を受け取る音が聞こえる
『はい、〇〇病院救急医療センターです。』
「…っ、あの、連れが蜂に刺されて、ーー………」
そして電話の向こう側の救命士に聞かれた事だけを素直に俺は答えた、。
しかしそう受け答えしながらも俺の目は都をずっと見ていて、
「………はぁ、……っ、はぁっ、…はぁっ、……」
ものすごい辛そうな都、。
はぁっ、はぁっ、……と息を吸い込むために必死に都は息を吐く、。
必死に、……必死に体を揺らしながら、………
俺の目の前でこいつも、……必死に、生きている、。
それを見てハッとした、。
まるでさっきまでのただ焦って都を見ていた目とはまるで違って見えた、。
そしてハッとしたと同時に、…ものすごく怖くなったのだ、。
都の横に転がるさっきの蜂に、俺はふいに目を向けた。
都を刺す事で力尽きたその蜂はペタンと触覚をだらしなくおろし、何本かが取れてなくなっていた足はその太った体にきれいに折り曲がったまま閉じられている。
その蜂は今、そこら辺に転がる石と同じ生命を持たないただの死骸なのだ。
……さっきまで必死にウジャウジャともがき動いていたのがまるで嘘みたいだった、。
さっきの生きようとする最後のもがきが"動"だとしたら、今の冷たく転がるこの死骸は"静"だ。
感情にすれば生きる事を目の当たりにすると"動"への恐怖を感じ、反対に死を目の当たりにすると"静"への美しさを感じる、。
それを一気にいっぺんに流れるように見た。
……もう一度視線を都へと戻す。
……必死に生きるその都の姿は紛れもなく"動"で、……隣に転がるその蜂の死骸は紛れもなく"静"で、…
……その対比がものすごく恐ろしかった、。
嫌でも都が静かになる所を想像してしまった、。
……よくよく考えれば都の今の状況はそれが否定できないくらいに危うい、
現にアナフィラキシーショックは必ず年に何人か死者はでる侮れない症状だし、……
そう、……それぐらい今のこいつと"死"は近くにいる、。
身体は心よりよっぽど素直みたいだ、。
心が気づいていなくても身体は震えてそれに気づかせてくれる、。
……まぁそんな経験自体今回が初めてだったけど、…
…………あ、……でもよくよく思い出してみれば父さんの死体を見たときもそうだった気がする、。
小さくなった父さんのその"静"についてよく理解できなくて、悲しくもなんともなくて、感情には全くついていけなかったのに……なのにカメラを持つ手だけは激しく震えてしまって必死にカメラを構えた。
…………、そうか、……、…
あの時のついていけなかった感情は、……もしかしたらこれだったのかもしれない、。
都を見て感じるこの不安、…行き場のない恐怖心、…………それから場違いの愛しさ、…"静"への美しさ、……
全てが混ざり合って、訳がわからないほど怖い、。
ピーポーピーポーピーポーピーポー…………
遠くの方で救急車のサイレンの音が聞こえる。
俺の頭の中はそれでもまだ一杯のままで、そんなサイレンの音に安心する事すら忘れていたのだった、。
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