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蜂の死骸と不死身の言葉。
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都を追って目的地に着くまではそう長い距離はなかった、。
……というのも、こんなに細くて勉強しかしてない(※偏見です)こいつに、到底体力があるとは思えない。
走り出してすぐにそれが小走りになってやがて早歩きになり、そして気づけばすぐに息を切らしはじめて歩きに変わった、。
俺は別にそれを止めることもせずにただ後ろからゆっくりと歩いてついて行くだけで、……………
あ………………、ここは、、、…………
気づいたら病院を出た時の景色から周りの景色がガラリと変わっていて、……そこは昨日みたばかりのあの路地だった……
前を行く都は息を切らしながら俯いて、ただひたすら目を皿のようにして地面を見て何かを探す。
ちょうど昨日と同じような時刻で電灯が上からポツリポツリと路地をぼんやり丸く照らし、そのひとつが都に当たってそこだけ都の影がそのまま路地に投写される。
………………あぁ、……あ〜〜…、、、
こいつが何を探してるのか分かった、……と思ったら、都がちょうど昨日刺された場所で地面を見たまま立ち止まった。
「………………………いた?」
俺はそんな都に、ひとつ溜息をついた後にそう言いながらゆっくりと近寄る。
「……………………。」
都は依然と下を俯いたままで、まるで俺の声なんてBGMのように聞こえてないみたいだ。
……影が落ちるその視線の先に目を向ける。
昨日と同じ冷たいアスファルト、…茶色がかる雑草、…無機質に転がる小石、……
そこにあるのはそれだけ。いつも通りの路地の隅。
…………蜂の死骸の足一本でさえ、そこにはなかった。
「…………病院にいるうちに雨でも降って流されたみたいだな…………それともアリが巣に持ち帰ったのか…、。」
「…………………………。」
そういってチラッと都の方を見ると、都は何も言わずにゆっくりとそこへしゃがみこんだ。
……俺もその横で昨日のようにしゃがみ込んで、都の顔を覗き込む。
昨日、こうやって都の横に同じようにしゃがんだ時は、その視線の先にもがき回るあの蜂がいた。
……でも、今はその都の視線の先に生き物の気配すらなにもない。
……そして、都の顔も昨日の無表情とは違ってとても辛そうな………、
……そうだ、この顔、…どこかでみたことがある、……あの時の、…ダリアを必死に植えていた時の顔と一緒だ、……
…………口を微かに震わせて、…何かに怯えながら…まるで睫毛の先まで悲しみに帯びたような、……
「………………そんなに蜂が消えたことが辛いのか、?………………そんなに生物が死ぬことが怖いのか、…?」
「……………………。」
都は表情を一切変えずにただ地面を真っ直ぐ見つめたままで、それは俺の声がその耳に届いてるのかさえ読み取る余地を与えなかった。
…………べつに聞こえてなくてもいいか、……
……べつに自分の意思を言ってくれなくてもいい、……
ただ、……俺もこいつと出会って、……今まではよく分からなかった"死"の感情についてぶつかって……
「…………なんか、……不思議だよなぁ、…。」
俺の言葉がそのなにも感じさせない路地にポツリと落ちる。
都が聞いてくれなくてもいい、俺に感情を吐露してくれなくてもいい、………
ただ俺が……言葉にして、…声にして…自分の感情を現実に落としておきたいと思ったのだ。
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