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蜂の死骸と不死身の言葉。
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「……………………はぁ、。」
そのとき、俺の口から無意識に溜息が溢れた。
それは本当に本当に無意識に落ちて、それを吐いた張本人の俺でさえその音が耳を伝って聞こえるまで気づかなかったのだけど、……
一対一の溜息なんて、今までなるべくつかわないようにしていたのに、…
…その溜息は相手に対する諦めや失望の言葉として溜息になり無意識に俺から出たのだった。
あ、………………
こいつの本当の感情が知りたい、
こいつの芯に近い言葉が聞きたい、
それには絶対こいつを諦めるなんてことしちゃいけないってわかっていたのに、……まだ餓鬼な俺は無意識にそれを溜息として吐いてしまった。
それに気づいてそう思ったときにはもう遅かった。
……ツーーーー……
都の目から今まで限界のラインで溜まっていた涙が堰を切ったよう綺麗に落ちて、都は今まで振っていた顔を止めてキッ…と俺を睨むと、
ドンッッ!!!
と俺の体を強く押してきた為に俺はまたバランスを崩してしまい、その隙に都が急に立ち上がりその場を走り去ってしまった、。
夜の夏の空気に都の走り去る足音がどんどん遠くなっていく。
…………また逃げられた、
……また急に立ち去られた、…………
……全くこれで俺何回目だよ………………
「………………チッ、……」
急に至近距離に人の気配を失った俺は、東京のアスファルトの上に尻餅をつきながら、ただ一人、虚しく舌打ちを落す。
……わけわかんねぇ、本気でわけわかんねぇ。
あいつにこうやって逃げられたときって、大体は俺の方に問題があるってわかってる、
今回だって俺が不用意に溜息を吐いたから、………………ってそれおかしくね、???
………………つーか、………あいつは俺が溜息を吐いたから去ったのか、…………?
………………いや、きっと違う、………。
俺は今までつい感情的になっていた自分の言動を走馬灯のように思い返してみた。
蛇口をひねった水のようにドバドバと溢れ出てきた言葉たち、。
その言葉達には、俺の管理が行き届いていなかった、。
勝手に出てきて勝手に…………俺の分からないうちにきっとじわじわと都の首を絞めていたんだ、…………
「あ"〜〜ーー………、、!!!」
今思い返せば、都が自分から喋った事とか本当に考えられないくらいすげぇ事だった。
酒井さんにでも話したらひっくり返ってそのまま救急搬送されてしまう、なんて、 それくらい、考えたらありえないことだった
"死は悲しみでしかない"
それでも都が俺に伝えたかった事。
しかも俺の口を塞いで、あんな細い体で俺の事を押し倒して、だ。
その発言が合ってるとか合ってないとか、そういうの全部抜きにして考えたら、
都にそんな行動を起こさせる程、都の感情をえぐるような引き金を俺が引いてしまったという事に違いなかった。
都は今まで絶対に喋らないことを守ってきた、でもそれを破ってでさえ伝えなきゃいけなかった。……言ってしまえば、もしかしたら都が喋れないフリをしている理由に触れてしまったのかもしれない。
死を…………美しいって例えた事が、…………そんなにあいつにとって許せない事だったのか、………………??
………俺が何の気なしに発したその言葉が、都の隠し続けていた芯に触れてしまったのか、………?
…………ああ、……これだから嫌なんだ、
不用意に出た言葉が勝手に相手を傷つけてしまう。
言葉の存在がもっと軽かったら
言葉の存在がもっとあやふやだったら、……
あいつを傷つけてしまわずに済んだかもしれなかったのに、……。
言葉こそすぐ死んでほしい
すぐ死んで、あたかも存在していなかったかのようにすぐ消えてほしい
……………なのに。
あのもがき苦しんでいた蜂は、すぐ死骸になってすぐどこかへ消えてしまった
…なのに。
俺のその願望と生き物の死骸とは真逆に、
言葉の存在はいつでも明確で、決して死なない。
蜂の死骸と不死身の言葉。
……これこそこの世の全てだ。
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