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僕のお兄ちゃん
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次々と読み終わっていく。
……俺にはわからなかった、なんでそんなに短い文章で終わらせることが出来るのかと。
俺は不思議でたまらなかった、そんなに大切に思ってないのかと。
きっと、お母さんが俺を置き去りにしなかったら、俺は今こんな所にいない。まず、産んでくれたから今ここにいるんだ。みんなそれは変わらない。なのに、どうして感謝の気持ちが伝わってこないのか、と。
とうとう俺の番になった。
俺はゆっくりと席を立つ。
ふぅ、と息をついて緊張をほぐしてみる。大丈夫、皆と、家族に伝えるんだ。俺の思い、言わなくちゃ。
「すこし、長いかも知れません。」
そう前置きする。
ちらっと、兄の方を見る。
真剣な顔の彼に、俺は伝えたいことが沢山あるのだ。
「……僕の兄は、誠実で、優しくて、頭が良く、料理も上手くて、運動もそれなりに出来て、ちゃんと自立しています。僕は、そんな兄と暮らしています。」
そうやって始まった俺の長い長い作文。だけどこの文は、一つも削ることができなかった。
「こんなこと言うべきなのかよく分からないけど、俺は、生まれてすぐに孤児院の前に置かれていたそうです。…その日は雨がひどく、秋の時雨だったので、俺の名前は時雨になりました。…両親のことは分かりません。顔も声も、僕は覚えていません。孤児院に引き取られてから15年間、そこでずっと暮らしてきました。……兄がいることを知ったのは去年の事でした。その時は夢みたいでした。だけど、よく似ていると言われるし、赤の他人には思えなかった。」
みんな、じっとこちらを見て話を聞いている。
「僕にとって、たった一人の家族なのです。……兄に聞いても、よく覚えてないそうです。でも、こんな兄さんがいることが、両親が優しかった証拠だと考えています。できるのなら、その時間にタイムスリップして、両親と会いたいです。……僕はそんなこと考えるけど、皆さんには素敵な両親が居ます。たとえいない方が居ても、親が片方だけでもいる事は幸せなんだと思います。俺が幸せじゃないなんてことはありえないことだけど、家族と一緒に過ごした時間は大切な時間のはずです。……常に一緒にいると、……忘れてしまうのかもしれないけど……。」
自分でも分かってた。声が震えてることに。
目の前が滲んで、文字がうまく読めないことに。
でも続けなくちゃ。
「……だから、この世に産んでもらったことに俺は感謝してもしきれません。俺が凍死してしまわないように、暖かい毛布に包んでいてくれた事、事情はどうであれ、俺はこの世に生まれることが出来た。だから今日、こんなに素敵な友人に囲まれることが出来たのです。……だ、から……それはみんな、おなじだから……。もっと、感謝してみたらどうでしょうか……っ、俺は今とても幸せです。きっと俺と兄をどこかで見守ってくれてる両親が居るんです、だから、届くように言いました。……これからは、もっともっと、大切な兄を護りたいです。」
ペコッとお辞儀をして、俺のスピーチはおわった。
皆、予想以上の拍手だったのを、鮮明に覚えてる。
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