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「声や、顔が、何度も蒼太に見えた。違う、陽太だと思えば思う程、蒼太になる。それに気付くと、あの日から消したつもりだったお前を好きだという想いが溢れた。そんな事、許されるはずがないのに。大切なものを奪って、現実から逃げて。でも俺はそれを隠して、もう陽太に見えなくなったお前を、抱き続けた。このままでいれば、俺はお前の傍にいられる、それが俺の本心だった」
祐樹さんの表情は自分自身を嫌悪しているように見えた。まさか、僕は信じられなかった。
「陽太の死を利用して、俺はお前を手に入れた。過去に縛り付けて、俺から離れていかないように。だから成長して大人になっていくお前が怖かった。この関係が終わってしまうんじゃないかと不安だった。でも結局、お前は俺の元から去って行った。本当は振り向かないお前に手を伸ばして、引き留めたかった」
僕と、同じだった。
僕達の歪んだ想いは、気付かぬ内に重なっていた。
それに気付いてしまった僕達は、どうすれば良いのだろうか。
望んではいけない幸せが、今、目の前にある。
「あれから、意味も、光もない日々を過ごしていた。いっそ、俺が死んでいればと思う事もあった。そんな時、偶々、本棚の本を落としたんだ。その本は、陽太から貰った本だった」
その本の題名を祐樹さんが言った途端、僕の記憶が蘇る。
「それ、僕が好きな…」
祐樹さんは小さく頷いた。
「珍しく蒼太が恋愛小説を読んでいるって、陽太が同じ本を買って来たんだ。俺も読んだ。気になって直ぐに貸してくれと頼んだらくれたんだ」
僕とは全く違う、ハッピーエンドの小説だった。
自分と重ねあわせたかったわけではない。
ただ、恋愛から得られる幸せを、兄と祐樹さんが感じている幸せをもっと知りたかった。
自分には手に入らないものだと分かっていたから。
「その本の間に、手紙が挟まっていた。陽太からの手紙だった」
その手紙をポケットから取り出し、体を離すと読んで欲しいと言った。
僕は震える手でその手紙を開いた。
ちゃんと気付いたんだろう?
お前は恋人である前に、親友でもあるんだ。
だから、お前の気持ちにはとっくに気付いていた。
祐樹が俺を好きだった事は分かっている。
だから、お前が俺と別れる事を選ぶのも分かっていた。
俺もお前が好きだった。
蒼太からは言えないだろうから、お前から言ってやって欲しい。
大切な弟と、大切な親友が幸せになってくれる事が俺の願いだ。
ただし、蒼太を泣かせたら、例えお前でも許さない。
それだけは忘れるな
蒼太を頼む
手で口を押えても嗚咽が止まらない。
涙がまた溢れて止まらない。
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