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ある日、二つ上の兄が恋人を連れて家へと帰って来た。
「こいつ、俺の恋人」
「おい!言うなよ」
「心配しなくても蒼太は言い触らしたりしない。な?」
兄は背後で慌てる恋人を笑って流しながら僕に同意を求める。兄に頷き、立ち上がると兄の恋人を見た。顔は童顔で、背も伸びないと嘆く僕達兄弟とは違い、背が高く男らしい。すっきりとした目元で、短い黒髪が焼けた肌によく似合っていた。戸惑っているのだろう。目が泳ぎ、落ち着かない。
「兄を、よろしくお願いします」
頭を下げると、恋人の驚く声が聞こえ、こちらこそと恋人が慌てて頭を下げたのが分かる。思わず笑みが零れた。兄は共働きの両親の代わりに僕の面倒を見てくれた。優しくて、強くて、僕の憧れだった。兄を呼ぶといつも笑って、僕の名前を呼んでくれた。
そんな兄が好きになった人なのだから、きっと兄を大切にしてくれる、そう思った。
これが僕と祐樹さんの出会いだった。
あれから四年が経った。
僕は二十歳になり、祐樹さんは二十二歳になった。歳を重ねた、僕達だけが。
十八歳のままの兄を、一人置き去りにして。
「陽太、陽太…」
ベッドの軋む音と、微かな喘ぎ声、そして必死に恋人の名前を呼ぶ切ない声。
「…陽太」
兄が死んだ。
「俺を、許してくれ」
祐樹さんが泣いている。
「陽太、ごめん、ごめん…」
傍にいるよ、一人になんてしない。だからもうこれ以上泣かないで。
「祐樹、好きだよ」
僕は兄になった。兄の代わりに何度も祐樹さんに抱かれた。ただ傍にいたかった。
だって、僕も彼を愛しているから。
望みのない恋だとは分かっていても、何度も顔を合わせる内に、次第に惹かれていった。
「お前らは本当に双子みたいにそっくりだな」
佑樹さんはそう言って、僕を可愛がってくれた。僕はそれが嬉しくもあり、悲しくもあった。隣りに並ぶ事が出来る兄を羨ましいと思った。
だからといって、二人の不幸を望んだりはしなかった。むしろ二人がこれからも恋人で在り続ける事を心から願っていた。兄の幸せを、祐樹さんの幸せを心から願っていた。二人の幸せが僕の幸せでもあった。
でもそれは余りにも突然に奪われてしまった。兄の十八才の誕生日の翌日の事だった。
兄が交通事故にあったと聞き慌てて病院へ向かった。兄は祐樹さんとの待ち合わせ場所に向かっている途中だった。
兄を看取ったのは祐樹さんだった。遅れて来た僕や両親はもう二度と目覚めない兄を見て言葉を失い、泣いた。
「俺が、俺のせいで…」
祐樹さんはお葬式には来なかった。全てが終わり祐樹さんの元へ行くと、憔悴しきった顔で僕を家に入れてくれた。一人暮らしをしている祐樹さんの部屋には兄がいた。お揃いのマグカップ、並んだ歯ブラシ、二人の笑顔の写真、この部屋で祐樹さんは一人兄を想い、自分を責め泣いていた。
「祐樹さん」
ゆっくりと近付き、痩せてしまった体を抱き締める。僕に向けた目には驚きと困惑が感じられる。やっと考えていた事の答えが見つかった。
「…蒼太、何を」
「違うよ、俺は陽太だ。陽太だよ」
そっと祐樹さんの頬に手を伸ばす。首を振りやめろという祐樹さんを今度は強く抱き締める。兄と似ている事をこんなにも嬉しいと思ったのは初めてだ。僕にしか出来ない。僕なら佑樹さんの求めているものを与えられる。兄の代わりになれる。
「祐樹、好きだよ。好きだ」
僕から逃れようともがく祐樹さんを決して離さず、名前を呼び何度も好きだと繰り返し言った。そして抵抗しなくなった祐樹さんは僕の背中に腕を回した。
「…よう、た、陽太、陽太」
兄の名前を呟きながら僕の体を抱き締める祐樹さんは嗚咽を漏らしながら泣いていた。そして祐樹さんは僕の頬に触れ顔を上げさせると、じっと顔を見つめ泣きながら笑みを浮かべた。
僕達は唇を重ねた。僕にとっては初めてのキスだった。それでも必死に、恋人であった兄に近付けるように、震える唇を開き舌を絡め応えた。直ぐ側にあるベッドに二人で倒れ込む。間近に見える祐樹さんの目からは涙が零れ、僕の頬を濡らした。もう一度唇を合わせる。僕を兄だと思ってくれれば良い。傍にいられれば、それで良い。
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