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明日は、兄の五度目の命日だ。
僕は家族よりも後に、一人で兄のお墓へ行った。
お墓に掘られた兄の名前をなぞる。
「兄さん、祐樹さんは元気にしている?僕のせいで、ごめんね…」
あれ以来、祐樹さんに会う事はなかった。
祐樹さんは兄さんが死んでから一度も家に来た事はない。来る事が出来ないのだろうと思う。
それに僕なんかに二度と会いたくないだろう。
手を合わせ、顔を上げた時、背後で僅かに足音が聞こえた。僕は身を固くし、その足音が過ぎ去るのを待ったけれど、その足音は僕の真後ろで止まった。。
「…蒼太」
「蒼太、久しぶりだな」
蒼太、と名前を呼ばれ胸に痛みが走る。
「…お久しぶりです」
僕は立ち上がり、後ろを振り返った。そしてそこにいたのは、あの頃とは違う陰りのない笑みを浮かべた大好きな人だった。
悲しみの先にあったはずの幸せへ、やっと踏み出そうとしているのかもしれない。
それはどんなに望んでも、僕が傍にいる限り手に入らなかったものだ。
祐樹さんは軽く頷くと、兄の墓をじっと見て立ち上がった僕の隣りにしゃがみ、手を合わせた。
「陽太、会いに来たよ」
祐樹さんは閉じていた目を開き穏やかな声で兄を呼ぶ。
「…陽太」
その声に寂しさは感じられても悲しみは感じられなかった。
僕は静かにその場を去ろうとした。二人の再会を邪魔したくなかった。
「蒼太、待ってくれ」
突然呼び止められ足を止めてしまう。振り返ると、祐樹さんの背中が見えた。
「陽太、ありがとう」
そう言うと、祐樹さんはゆっくり立ち上がりこちらを向いた。
目の前にまで来ると、そっと僕を抱き締めた。
僕は驚きで身動き一つとれない。
「ずっと、弟のように思っていたんだ。蒼太が昔から可愛くて、こんな弟がいれば俺も陽太のように溺愛しただろうなと思った。でも、その想いは変わってしまった」
祐樹さんの頭が僕の肩に乗せられ、抱き締める腕に力がこもる。
「俺は、蒼太に惹かれていた。自分でも気づかない内に…」
今何と言ったんだ、僕は言われた言葉の意味を必死に理解しようとしていた。
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