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父さんと母さんが事故で亡くなったのは、今から3年前の夏のこと。
おれは高3だった。それまでだって裕福だったわけじゃないし、大家族にとって教育費は重要な問題だ。幸いにも成績もなかなかのものだった俺は、国立の大学を目指して受験勉強をしていた。
ある日、母さんが商店街の福引きで、一泊二日の温泉旅行ペアチケットを当ててきた。
少女のように眼を輝かせて興奮し、けれど「うちは子供たちもいるから無理かなぁ」なんてぼやいてるのを俺は聞いていた。
「いいよ、俺、2日くらい面倒見れるよ。父さんと行ってくれば?」
そう提案したのは当然の流れだったと思う。俺たちのために父さんや母さんが頑張ってきたのは知っていた。見た目は若々しかったけれど、髪にはちらほらと白髪が混じり始めているのにも、気付いていた。
こんな機会がなけりゃ、親孝行なんて簡単にできないし。どうせ俺は勉強のために家にいなきゃいけないんだし。そんな簡単な気持ちで、俺は迷う両親の背中を押した。
…報せの電話を受けたのも、俺だった。
雨で地盤が緩んでいて、とか、土砂の中に車が埋もれて、とか、即死だったから苦しまなかったはずだ、とか。
色々言われた気がするけど、正確には覚えていない。気付いたら電話を切っていた。
それから、友達と出かけていた次海を呼び戻し、まだ起きてこない末広を揺り起し、忙しいんだけどと迷惑そうな顔をする三弥を引っ張ってきたのも全部俺。
俺が訃報を皆に伝え、亡骸との面会に連れていき、ぼろぼろに泣くあいつらを慰めた。
葬儀は親戚が請け負ってくれた。今後の面倒を見ようと提案してくれた人も何人かいたけれど、4人全員を引き取るのは簡単なことじゃない。一人ずつならと言われて、残った家族をばらばらにされたくないと俺たちは丁重に断った。
幸いこの家はローンを払い終えていたし、少ないながらも貯金は蓄えてあった。
けれど、4人分の学費は、俺の想像以上に大きくて。
俺はすぐさま高校を辞めて、親戚が紹介してくれた工場に就職した。夜のバーでのバイトも始めた。次海の週3のバイトの収入も合わせれば、なんとかやっていけるだけの金額になった。
キツくないと言ったら嘘になる。
工場は週末休み、バーは平日休みだから、一日休める休日はない。泥のように眠って、また出勤。その繰り返し。慢性的な疲れがとれることは決してない。
けれど、俺には守るべき家族がいる。だから俺はいつだって笑顔になれる。家族は俺にとって唯一の癒しでもあるんだ。
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