アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
父親
-
「関係なくないっ、だって同じクラスじゃんか」
もうこいつと話をするのが嫌になって来た。
教室にも居たくない。
雨が降ってるし丁度良い。
「帰る」
「は?あ、おい待てよ」
腕を掴まれた。
苛ついたので思い切り振り払った。
「あっ」
何か言いたそうな顔をしていたが無視する。
もうついてこないらしい、足音は一人分だ。
昇降口に着くと、やっぱり外は雨が降っていた。
傘も持たずにその中に出る。
制服が段々と湿っていく。
髪は濡れていると思うけど、まだ冷たくない。
顔に雨が当たって視界が上手く確保できない。
いい気分だ。
歩きながら父親の事を思い出した。
雨と本が好きな人だった。
休みの日に雨が降ると「良い天気だ」と言って喜んでいた。
機嫌の良い父さんと一緒に本を読むのが好きだった。
雨の音を聞きながら、父さんの真似をしてコーヒーを飲んだ。
苦くてカップに戻したら母さんに笑われて、ミルクと砂糖をいっぱい入れてくれた。
入れすぎてカップから溢れそうだったけど、甘くて美味しかった。
その日からいつも本を読むときはそれを飲んでた。
父さんの横で椅子に座って、窓ガラスに当たる雨の音を聞きながら、溢れそうなコーヒーを飲む。
読んでた本は父さんから借りてたから、汚さないように気を付けていた。
父さんは別にいいって笑ってたけど、母さんも大事にしてるのを知ってたから。
三人の宝物に思えて、汚したくなかった。
ある日突然父さんと母さんが死んだ。
気が付いたら、電話が鳴っていて、それを取ったらそう言われた。
取らなきゃよかった。
「明石っ」
父さんと母さんの思い出が遮られる。
「お前っ、何やってんだよ、こんな雨の中」
子犬だった。結局追いかけて来たのか。
俺は無視して歩く。
大好きな雨が、振り払われていく気がした。
「おいっ、明石ってばっ」
腕を掴まれる。今日何度目だろ。
振り払おうとしたら、余計に強く握られた。痛い。
振り返ったら子犬も傘をさしてなかった。
「ぁ・・・も、戻ろーぜ」
「帰る」
「・・・分かった、お前がそういうんなら、俺も、帰るぞ」
見え透いた脅しだ。見え透いているから意味がない。
「帰れば良い。転校初日に無断早退すればどうなるか知らないけど」
「そ、そんなこと言うなよっ、ほら雨強くなってきたし風邪ひくってば。
・・・な、戻ろ?クラスの連中ならだいじょぶだって俺も一緒に」「離せ」
「あか」「離せ、離せ、離せ。後何回言えば良い?」
これで離さなかったら殴ろう。
「ぇ、お、あの」
力が抜けた。充分だ。
手を振り払って雨を浴びる。
俺はまた、歩き出した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
8 / 48