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戻る Side葵
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手を振り払って明石は歩いて行った。
傘もささずに雨の中を、そこが自分の居場所みたいに。
何回も関係ないって言われたのはちょっときつかったけど、それでもなんか放っておけないなって思った。
同情・・・なのかな?だとしたら嫌なのかな、やっぱり。
とりあえず寒くなって来たから、俺は明石の背中に背を向けて校舎へと戻った。
教室に戻ると制服がびしょびしょだったからクラスの皆に凄く心配されて、俺は嬉しく思う前に失敗したって思った。
だってこれでまた明石が悪者になる。
俺が勝手に追いかけたのに、明石のせいで俺が濡れたみたいになる。
出来るだけやんわり俺が悪いって言ったけど、皆明石の悪口を沢山言ってて聞いて無かった。
矢部だけはそう言う事を言わないで、着替えが有るから保健室に行って来いって言ってくれたけど、その横で新沼が一番悪口を言ってた。
保健室は誰かと一緒に行ったらずっと明石の悪口を聞かなきゃいけなくなりそうだったから一人で行こうとしたけど、道が分かんなくてこっそり矢部に聞いた。
そしたら矢部が一緒に来てくれることになって、二人で廊下を歩いてたら急に話しかけられた。
「なぁ藤宮」
「ん?」
「お前、明石に関わるの止めたがいいぞ」
「え、何でだよ・・・矢部も、そういう事言うのかよ」
矢部がこんなこと言うと思わなかったから、俺は驚いて、少しショックだった。
「馬鹿、ちげぇ。別に明石を悪く言ってるんじゃなくて、関わるなって言ってんだ」
「だから何でだよ。要するに明石が嫌な奴だって言いたいんだろ?」
「あー、分かった当回しに言うのは止める。俺は別に明石が嫌いじゃない。いいか?これは本当だ。その上でもう一回言うぞ。明石と、関わるな」
俺は少し混乱して。それが苛立ちに変わりつつあった。
「だから何でって聞いてんじゃんか。理由も無いのにそんなこと言うなよ。俺来たばっかなんだし、明石とだって仲良くしても良いじゃん」
「なれると思うのか?あの状態で」
「まだ分かんないじゃんかっ。決めつけんなよっ。もういいっ、場所分かったし一人で行くっ」
保健室の三文字が見えたので、俺は矢部を振り切る為に走った。
「藤宮っ」
保健室に入り、急いでドアを閉める。
白衣を着た先生が驚いたような顔でこちらを見ていた。
「あ、す、すいません」
「何してるのよ、具合が悪くて寝てる子もいるんだから考えなさい」
「はい、すいません」
「それで?この雨の中外にでも出たの?ほら、新しい制服準備しとくから脱いで頂戴」
少し恥ずかしかったけど、静かな保健室で騒いでしまった罪悪感から俺はその場で制服を着替えた。
「終わった?それじゃあこれ、出来るだけ乾かしとくから帰りにまた保健室寄ってね。
もしそれまでに保健室締めなきゃいけなくなったら先生に渡しとくから。分かった?」
「はい、あの。色々有難うございました」
「あら、意外と礼儀正しいのね。風邪ひかないように気を付けなさい」
「はい、失礼します」
保健室を出たら、矢部がすぐ横の壁に寄りかかって座ってたからちょっとビビった。
「おう。終わったか」
「矢部、その、待って、くれてたのか?」
「帰り道、知らねぇだろ」
あ、そうだった。次の授業とかも、全然分かんないや、でも俺、さっき。
「さっきの事は気にすんな」
「え」
「俺も言い過ぎた。
言い分を変えるつもりは無いけどな、それにしても言い方が悪かった」
「俺こそ、ごめん。わざわざ付いて来てくれたのに、もういいとか言って」
「ん、藤宮は良い子だな。素直で可愛い」
「可愛い言うな」
「お、やっぱり地雷か。名前の呼び方からしてそうかとは思ってたけど」
俺は溜息を吐いた。
「俺男なのにさぁ。今までかっこいいとか、渋いとか、言われたことないんだぜ?
可愛いとか、小動物みたいとかそんなのばっか」
「まぁ渋いには程遠いな、っく、ふっ、ははっ」
矢部が堪えられないという風に笑い出した。
「笑うなって。これでも結構真剣なんだからな」
「くっ、悪い悪い、もしかしてあれか?今朝の酢昆布とかって意識してんのか」
「ま、まぁ、うん。酢昆布とか年寄りっぽいかなって思って」
「あー・・・それ逆効果だわ。めっちゃ可愛い。今の話は絶対しない方が良いぞ」
「だから可愛い言うなって。話さねーよ、矢部だったらいいかなって思って。言うなよ?」
「はいはい、言わねぇよ。でもさ、じゃあ別に酸っぱいのが好きじゃないとか?」
「別に酸っぱいのも好きだけど、甘いのは苦手じゃないかな、むしろ好き」
「成程、そりゃ隠すわな。イメージ通りだ」
やっぱりかぁ、もう学校じゃ甘いもの食べれないのか。
「ま、そんな顔すんなって。無理やりっぽく食わせてやるから」
「え、マジで、やった。うん、矢部は良いやつ決定だな。あ、下の名前は?」
「斗真。別に呼ぶのは構わないけど新沼の事も新って呼んでやれよ?拗ねるから」
「ははっ、分かってるって。改めて宜しくな、とーま」
俺はさっきよりも矢部と少し距離が縮まった気がした。
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