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乾く
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湿布ですーすーする腹を気にしながら本を乾かしていると、保健室のドアが開いた。
「失礼します」
「しまーす」
「あら、もう朝礼始まる時間じゃないの?・・・あなた昨日の子ね?今日は何?」
聞き覚えのある声がしたので顔を上げると藤宮と新沼がいた。
「あの、明石、君、とおんなじクラスで、様子を見に、来ました」
「・・・そう。先生に許可は貰ってる?」
「あ、はい」
「ならいいわ。先生ちょっと出るから、適当に座って待ってて頂戴」
そういうと先生は白衣をはためかせて保健室を出て行った。
俺はまたドライヤーの操作を再開する。
「あのさ、明石、俺もそれ手伝おうか?」
「必要ない」
「・・・明石さぁ、みーちゃんは手伝おうって言ってるんだから、せめてもうちょっと言い方どうにかしたら?」
「あらたっ」
「みーちゃんはちょっと黙ってて。俺がむかむかすんの。ねぇ明石聞いてる?」
「聞いてる」
「・・・喧嘩売ってるわけ?じゃあ止めんの?今すぐ」
「あらたっ、もう止めろってば」
「お前には関係ない」
新沼が俺の前に回り込んで、覗きこむ様に睨んで来た。
「お前さ、昨日みーちゃんにも同じこと言ってたよな。言われた方がどんな気分になるのか考えたことあんの?」
「ある」
新沼の表情が固まって、藤宮が『え』と声を漏らしたのが聞こえた。
「・・・っざけんなよお前。分かっててやってんのか?分かっててあんなに酷い事みーちゃんに言ってんのか?」
机を回り込んで来ようとしたのか、新沼が上体を起こした時保健室のドアが開く音がした。
「おう、藤宮・・・と新沼?何でお前ここに居るんだよ」
「別に、良いじゃないっすか。みー・・・藤宮もいるんだし」
「・・・まぁとりあえず座れ、お前にも聞きたいことが有る」
大林先生が俺の横に座って、机を挟んで正面に藤宮、先生の正面に新沼が座った。
「明石は・・・まぁいいか、そのままでいいから参加はしてろ」
「はい」
「まず藤宮。単刀直入に訊くがお前明石に何かしたのか?」
「俺は、えっと、友達になりたくて、声かけたりはしましたけど」
「成程な。じゃあ逆に訊くぞ、明石はお前に何かしたのか?」
「してないです」
「いやでも、先生明石は」「お前には訊いて無い」
「・・・はい」
「まぁ良い。それじゃあ明石は藤宮に何もしてないし、藤宮も明石には何もしてないんだな・・・よし、まずは分かった。次に新沼」
「俺はしたと思います」
「俺の話を聞けないなら出て行け。そうじゃないなら質問に答えろ・・・よし、お前、明石に声を掛けた藤宮を止めたらしいな。どうしてだ」
「それは・・・その、明石が藤宮に、えっと」
「何だ」
「別に何かをしたってわけじゃ、ないですけど、でも冷たくしたり、酷いこと言ったりしてたから」
「藤宮は違うと言ってるし、お前が口を出す問題か?子供じゃないんだぞ」
「それは分かってますけど・・・でも、藤宮だって来たばっかりで」
「もういい分かった。明石、何か言いたいことはあるか?」
「特にありません」
「したいことは?」
「特にありません」
「じゃあこの話は終わりだ。ほら、お前らはもう戻れ」
「え、でも」
「良いから戻れ」
「・・・はい。いこ、みーちゃん」
「失礼しました・・・じゃあな明石、また後でな」
俺は本をひっくり返して表面を撫でて、乾いているかを確認した。
ドアが開いて閉まる音がする。
先生が立ち上がって俺の正面に移動した。
「明石、そのままでいいからちょっと聞いていいか?」
「はい」
「ここに来る途中保健室の先生と会って聞いたんだけどな。お前たまに変な傷作って保健室に来るらしいな」
質問じゃ無かったし、『変な傷』がよくわからなかったので黙っていた。
「・・・うん、それでな・・・・お前、父さんとか母さんに殴られたりしてないか?」
「してません」
もう死んでるから。
「そう・・・か。分かった。悪かったな変な事聞いて。あぁそれとクラスの連中には俺から言ってあるから心配すんなよ。何かあったら言いに来い。良いな?」
「はい」
「おう・・・それじゃあ俺は戻るから、本乾いたらお前も戻れよ。んじゃまた後でな」
「はい。失礼します」
担任が立ち上がって視界の端から消える。
ドアが開いて、少し間が有って閉まる音がした。
本はもう、乾いていた。
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