アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
窮屈
-
屋上での昼食は、あまり上手くいかなかった。
俺を呼んだ二人が俺に何か一つの話を振ると、後は俺が話すのをずっと待っていたからだ。
一々そんな風に待たれても俺はそんなに話せないし、かといって黙ってると『何か、無いの?』とか言われて。
正直酷く窮屈だった。
いつもの藤宮たちなら藤宮がやたらめったら俺に話しかけて、一つ反応を返したらそこからまた沢山話を広げて行って、それを見た新沼が口を挟んだりして、それに矢部が突っ込んでお約束みたいな掛け合いが始まって。
結局、気が付いたら屋上から帰ってきてた。
いつもなら藤宮が時間ぎりぎりまで話しかけて来て全然帰らせてくれないけど、後二十分もある。
卵焼き食べたいな。
そんな意味の解らないことを考えながら、俺は久々に机で眠りについた。
『太一兄さんはここね』
『光と同じ部屋なのか?』
『うん』
『夜は、どうするんだ?』
『あ、ベッドが無いから?ちゃんとマットレスと布団持ってくるから、そこは安心して』
『分かった』
景色が溶けて混ざるように変わり、居間へと移動して、また二人の部屋へと戻った。
『ふふっ、くっつけちゃった』
『あぁ、だな』
『んー、反応薄いなぁ。ま、いっか。それじゃあ寝よ?』
ぴったりと付けて並べられた二組の敷布団の一つに入り、光ももう一つの布団に入ってリモコンで電気を消した。
『・・・ん?』
手に何かが触れた。
『太一兄さん、手、繋いで良い?』
『別にいいけど』
『じゃあ、借りるね』
てっきり片手で握ってくるのかと思ったら、光は両手で包むように俺の右手を握る。
『お休み太一兄さん』
『お休み光』
「・・・し、あかしっ、明石、起きろって、手っ、手っ」
「んぁ?」
どうやら夢を見ていたようで、目の前には暗い天井ではなく藤宮の焦ったような顔が有った。
「・・・どうした?」
「だから、手っ、寝惚けてんのかよっ」
言われた通り手を見ると、右手で藤宮の手を握りしめていた。
焦っているのはやっぱり何でかよくわからないが、とりあえず開放する。
「お、もう仲直りしたの?みーちゃんさっすがー」
「まぁ、藤宮らしいちゃらしいな。速攻で行動に移すとは・・・そんなに寂しかったのか?」
「何が?」
「あーもー余計な事言うなってっ、何でも無いからっ」
何の話がよく分からずぽかんとしていると、何かをごまかすように藤宮が話し始めた。
「あ、明石さ、明日の昼飯ってもう約束してたりする?」
「してないけど」
「じゃあ明日は俺らと食べよう、あ、明日からは俺らと一緒に食べる事に決めとこうぜ。なっ?それが良いよなっ」
「お前さっき良く図々しいとか言えたな」
「みーちゃんかーわいー」
「う、煩いなっ、何か緊張して」「分かった。それじゃあ藤宮の所に行けばいいのか?」
返事を返した途端に藤宮の表情が緩み、激しく頷きながらさっき話した手を今度は藤宮から握って来る。
「おうっ、じゃあとりあえず明日なっ。絶対来いよっ」
「分かってる。絶対忘れないよ」
「ん、じゃあなっ、ふふっ」
「明石は明石で天然藤宮たらしだもんな」
「みーちゃん顔緩みっぱなしじゃん」
三人が何かを言い合いながら、各々の席へと帰って行く。
明日から昼飯で窮屈な思いをすることは無くなりそうで、俺は少し嬉しくなった。
そしてその後は何事もなく、午前中みたいに授業も起きてて放課後になった。
藤宮たちはやっぱり今日も呼ばれていて、まぁ良いかと帰ろうとしたら昼間とは違う男子二人が俺に声を掛けて来た。
「なぁ、明石今日機嫌良いんだって?」
「いや別に、そう言う事は無いけど」
「おー、ほんとだ反応が違う」
何だろう、少し不愉快だ。
「あ、お前余計な事言うなよちょっと不機嫌っぽくなったじゃんか。・・・明石さ、多分お前俺らと帰る方向同じだよな?」
「それは・・・ちょっと分からない」
「えーっと校門出てから右に行くんだけど、同じ?」
「あぁ、それなら同じだな」
「そんじゃ一緒帰ろうぜ」
「ははっ、あー何か緊張するわー」
「あ、分かるかも」
二人は口を挟む暇もなく俺の同行を決め、そして待つつもりなのか近くの机に軽く腰掛けて話し始めた。
・・・断っても、どの道同じか。
「帰れるぞ」
「おー、じゃ行くか」
思えば誰かと一緒に下校するのは初めてで、何故か藤宮の顔が浮かんですぐ消えた。
あぁ、初めて一緒に登校したのが藤宮だったからか。
俺はそんなことを考えながら、名前がよく思い出せない二人と一緒に帰路に就いた。
道中は昼食の時と同じで質問ばかりされ、少し慣れたので出来る限り対応していた。
昼食の時の二人よりも俺に話題を振りっぱなしという事も無く、そこそこ盛り上がったままマンションへと近づいていく。
「あ、そういえば知ってる?もうちょっと行ったらマンションあるじゃん?あそこめちゃくちゃ家賃高いらしいぜ」
「お前マンションで家賃ってどうなの」
「え?マンションでも家賃じゃないっけ?」
「家賃って言うよりローンとかじゃね?」
「あー、そっか。な、明石何か知ってる?」
「知ってるって言うか、あそこか?」
見えて来たマンションを指さす。
「お、そうそうあそこ。やっぱ見るからに高そうだよな。で、何か知ってんの?」
「俺、い・・・あそこに住んでる」
『今は』と言いかけて言い直した。
詮索されるとまた面倒臭い事になる。それに不快だ。
そしてその直後、その事実自体言わなければよかったと後悔した。
「えっ、マジで?明石ん家金持ちな感じ?うわぁセレブー」
「あーでも何かそんな感じあるかも、良いとこのお坊ちゃんっぽいし」
久々に口を開くのが嫌になって来た。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
34 / 48