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払われた手
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藤宮に避けられている気がする。
もともと人に話しかけたり近づくことをしないから、もしかしたら勘違いかもしれないけど。
今まで少し嫌になるくらい話しかけて来て、それでやっと俺も慣れて来て毎日一緒に昼飯も食べているのに藤宮と目が合う回数が明らかに減った気がする。
昼飯の時は普通に話してるし、未だに色々と質問されるのは変わってないけど今までみたいにそこから話を広げるんじゃなくて、『へぇ』とか『ふぅん』とか言って一人で何か考え込むことが多くなった。
だから自然と矢部と新沼が話を変える事になって、結局俺は話に入りづらくなる。
俺が知らない間に何かしてて、それで怒らせたのかと思ったけど思い当たる節が無い。
じゃあいつからかと考えたら、一週ぐらい前に藤宮らしくない質問をされたのを思い出した。
でもあの時はほとんど女子が話してて、俺は藤宮と口をきいていない。
「でも明石ってさー、意外とイケメンだよね」
「おー、新沼はやっぱりそっちの人でしたか」
「あいらぶとーまきゅん」
「そうか、昼飯を水浸しにしてほしいか」
「嘘です矢部様」
「分かればよろしい。んー、まぁ確かに整ってるな。でもあれじゃないか?男相手に言う言葉じゃないかもだけど、イケメンって言うより綺麗な感じ」
「あー、かも。ね、明石前髪あげてみてよ」
「前髪?何で?」
「明石っさ前髪長くて損してるタイプっぽいから」
「・・・えっと、ちょっと意味が分からない」
「あーまぁつまり、前髪長くて隠れてるところが見たいんだと」
「でも明石まだ飯食ってるじゃん、悪いってば」
「・・・見せるだけなら別にいいけど?」
「いや駄目だって、いいから飯食え飯」
妙に藤宮が食い下がるので、前髪を上げようとした手を下ろした。
「ぶぅー、何でみーちゃんが止めるのさ。あっちょんぶりけ」
「止めろ可愛くないから。むしろキモイ、吐きそう」
「矢部さん絶好調ですね、しかし俺は諦めな、いっと」
「あ」
ぐいっと身を乗り出した新沼が、そのまま払うように前髪を上にあげた。
「おー、やっぱいっけめーん」
「女子が喜びそうな感じだな、色白くて」
特に食事に支障が無いように一応気を使ったようで、新沼の腕がぷるぷる震えながら空中で止まっている。
でもそれよりも、俺は藤宮の表情が気になった。
「みーちゃん?どしたの?」
「・・・え?何が?」
「何かすっごい怖い顔してたけど、食事中にこういうのあんまり好きじゃない人だった?ごめんね」
「あ、うん。まぁそんなところ。良いよ別に・・・ちょっとトイレ行ってくる」
「いってらっさーい」
藤宮は足早に教室から出て行く。
そして姿が見えなくなったのと同時に、矢部が真剣な表情で話し出した。
「明石、お前藤宮と何かあったか?」
「・・・考えてみたけど、ちょっと分からない」
「でも絶対おかしいでしょあれ、何で飯食ってる時にじゃれるのは嫌なのに普通にトイレ行くのさ、そっちの方が嫌でしょ普通」
「でも、心当たりが無くて」
「・・・なぁ、俺らが居たら話せないこともあるだろうし、もしお前が良ければ今から行って来たら?多分今からトイレに行っても間に合うだろ」
矢部の言っている事が一理あるように聞こえたので、俺は席を立ってトイレへと向かう事にした。
「いってらっさーい」
「無理っぽかったら、諦めろよ」
教室を出て、廊下を進みながらどうやって話しかけるか考える。
と、不意に向こうから藤宮が歩いて来た。
思っていたよりも早く済ましたようだ。
藤宮が俺を見て一瞬固まり、すぐに笑顔に戻った。
「どした?ははっ、明石もトイレなら一緒に来ればよかったのに」
「・・・藤宮、俺、何かしたのか?もししたなら教えて欲しい」
「へ?何が?それよりさー、さっきトイレで」「さっき、俺の事睨んでたから」
笑っていた藤宮の口元がひきつる。
やっぱり俺何かしたんだ。
「俺、本当に分からなくて。ごめん」
「あ、明石、だから違うってば、別に何にもしてなくて、さっきのはその、ちょっと、えと、ほら、あーちゃんも言ってたじゃん?俺食事中にそういうのあんまり好きじゃなくてさ。ごめんな勘違いさせて」
「・・・でも、トイレには行けるのか?」
「え?あ、えと、トイレは・・・だから、違うって・・・言ってるじゃんかっ、何でそんな事聞くんだよっ」
藤宮が堪えられないと言うように、声を荒げた。
何で聞くのか・・・何でだろう。
でも、藤宮に何かしたなら謝りたい。
「藤宮に、怒ってほしくないから」
自分の中で出来る限りの言葉を選んだつもりだった。
謝ったら怒りそうだったから、それも含めてそう言った。
でも、それを聞いた藤宮は少しだけ呆けたような表情になって、すぐに顔を赤くした。
「何だよ、それ。俺の事馬鹿にしてんのかよ!」
「違う、そうじゃなくて」
「もういい煩い!」
藤宮がつかつかと俺の横を通り過ぎようとする。
だからつい、手を伸ばして肩を掴もうとした。
ぱんっ
しかし伸ばしたその手は、藤宮の手に払われた。
藤宮が自分でしたのに驚いたように藤宮の手を見た。
「ぁ、ぇと、これ、は・・・あーもう!」
教室の方へと走り去っていく藤宮を、俺は見る事しかできなかった。
不意に矢部の言葉を思い出した。
『無理っぽかったら、諦めろよ』
思い出すのが、少し遅かった。
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