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払った手 Side葵
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俺ほんと何やってんだよ。
俺は昼休みの校舎を、昇降口に向かって走りながら泣きそうになっていた。
明石は一歩踏み出してくれた。
明石だって気付いてたんだ、俺が明石とちゃんと喋ろうとして無い事に。
避けたい訳じゃない。
嫌いになんてなってない。
だけど、苛々する。
俺の知らない所で仲良くなった奴と話してるのを見ると、笑ってるのを見ると、苛々する。
明石に何があったのか知らないけど、ここ一、二週間で本当に雰囲気が変わった。
先生もとりあえずは様子見に徹しようって言って、多分もう大丈夫だろうって言ってた。
俺は嬉しい筈なんだ。喜ぶべきなんだ。
なのに、一番考えたらいけない事考えてる。
前の方がよかったって思ってる。
俺が一生懸命話しかけて、ぽつぽつ明石がそれに答えて、それでも良かった。
明石は正直に、何にも誤魔化さないで本音で話してくれるから。
俺は何でか初対面なのに良い人ってレッテルを張られることが多くて、でも時には嫌な事も有ったりして、でもそれを言うとイメージと違うとか言われて凄く嫌な顔をされて。
結局それが嫌で空気を読むのが癖になって、言いたく無い事も言ったり、言いたいことも言えなかったりするのがほとんど癖になってた。
桜にも、何度心配されたか分からない。
でも、明石は正直に言えば、正直に返してくれる。
本音を言えば、本音を返してくれる。
そこには盛り上がりも無いけど、だけど打算も期待も無くて。
だから俺が質問して訊かれたくない時は嫌な顔をしたりしたけど、ちょっとした愚痴とかを話しても黙って最後まで聞いてくれて。
どう思う?とか聞いたら『大変なのか?』とか聞き返してきて。
お疲れ様とか、大変だねって決めつけるんじゃなくて。
大変なのを知ろうとしてくれてるのが嬉しくて。
本当の意味でありのままの俺を受け入れてくれる気がして。
それが、凄く、凄く嬉しかった。
なのに、俺は明石の手を叩いた。
明石は何にもしてない。
俺が勝手にやきもち焼いて、勝手に苛々してるだけなのに。
完全に八つ当たりだ。
子供みたいなんて言葉でごまかせない。
情けないにも程がある。
本当に最低だ俺。
「みーいーちゃーん」
「っ・・・あ、あーちゃん?何でここに」
「ありゃりゃ、どしたの泣きそうだね」
止めてくれ、そんなこと言われたら本当に我慢できなくなる。
「みーちゃんね、何があったか知らないけどもため込んじゃ駄目。別に嫌なら話せとは言わないからさ、せめて泣きなよ。泣きたいなら」
鼻の奥がつんとして、視界がぼやける。
「人払いだけしとくから、終わったらおせーてね?」
あーちゃんの近寄らない優しさに、喉の奥がせりあがる。
・・・もう、我慢できなかった。
「・・・ぅ、ぅあ、っく、う、うぅっ」
少しだけ体になじんで来た制服に、一つ二つと涙が落ちた。
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