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6月
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「とも君、お友達のかたが、迎えに来ているわよ」
母が、家の前に学生が溜まっているのを見つけ、そんな報告をしてくれる。毎度ながら、朝から、あの連中の相手をする事にうんざりした気分になった。しかも、登校の時間まで、まだ時間に余裕があり、俺も、今から朝ごはんを食べるところだった。しかたなく、Tシャツと短パンのまま、家の外に出る。
「お前ら、こんな事するなって、言ってるだろ」
一戸建ての家が並ぶ普通の住宅街だが、男子学生が家の前で集まっていたら、何事かと思われるかもしれない。近所迷惑になる、と注意しても、こいつらは、しおらしい振りをするだけで、結局聞きはしない。
「友樹様、おはようございます。今日もかっこいいです」
「ルームウェアも素敵です」
「お家から出られる所もかっこいいです」
興奮気味に話しかけてくるのを、玄関を出て門扉まで歩きながら、聞き流す。これもいつもの事だ。
「迷惑だからやめてくれ」
制服のネクタイが赤色だから、3年だろう。年下の俺を相手に、みっともないとは思わないのか。この学生たちも、別に不細工ではないと思う。むしろ、モテるタイプの顔立ちで、スタイルも悪くないように見える。
「友樹様のために、お弁当作ってきたんです。昨日、食堂のを召し上がってましたよね。危険です。何が入っているか分からないですよ」
普段は、母親か自分の作った弁当を持っていく。ただ、昼に温かいものを食べたいと思って、昨日はわざと持っていかず、食堂で食べたのだ。いちいち俺の食事時を見ていたことを報告してくるのも不快に思ったが、悠長に相手もしていられない。弁当の入った紙袋を受け取った。
「あっ、あの、メインは神戸牛の赤ワイン煮で、ホタテのカルパッチョに、クロワッサン、フルーツサラダに、ティラミスです」
弁当の男は、顔を赤くしながら、嬉しそうに説明している。他の男たちもはしゃぎながら、見守っていた。
「そう、ありがとう。ところで、あそこの離れたところにいるやつの名前は分かるか?」
ここにいるのは、3年が7人だけだが、2件隣の家のところの電柱の横にも、同じ学校の制服を着た男子学生が1人、こっちを向いて立っていた。
何年生か見分けられない。佇み方がいかにも、ストーカー然としている。
俺に用じゃなければいいけど。今日だけ居るのか?以前からなら、全く気がつかなかった。
余計な心配事が増えたような気がしたが、むりやり思考停止させる。
「たしか、森山か森田か、そんな感じだったような。友樹様と同じクラスですよ」
同じクラスと言われても、ほとんどのクラスメイトを覚えていないので、別に驚かない。
その森山か森田というやつのところまでスタスタと歩いていく。と、先輩方も一緒に着いてくる。はしゃいでいるやつらが、さらにうざい。
「森山君。ここで何をしているの?」
多分、話した事が無いので、様子を見るつもりで聞いた。けど。
反応が無い。森山じゃないのか。森田のほうか。
「名前違ってた?ごめん」
これ時間掛かる感じなのか。いきなり、めんどくさくなる。
「えっと、あの…森山です」
「森山君。ここで何をしているの?」
なるべく優しく聞いたはずだが、そうではなかったか。目の前の森山は泣きそうになっている。もういい。
「森山君。これあげる。いらなかったら、捨てたらいいから」
さっき受け取った弁当を森山に渡すと、踵を返した。
3年も着いてくるが、皆、テンションが一気に下がっている。
「友樹様、何であんなやつに優しくするんですか」
「私のことも呼んでください。原田です。友樹様になら、犬と呼ばれてもいいです」
「お弁当、友樹様に作ってきたのに、ひどい」
「ひどくて結構だ。これを機に、俺のことを忘れてくれ」
別に優しくなんてしてないけど。口々に文句を言われながら、こっちも収拾させようと考える。
「ひどくない。ひどくないです。友樹様になら何をされても本望です」
マゾってこういうやつなのか。別に、俺はそういうのを見て喜ぶ趣味はない。
「あっそ。でも、家にはもう来るな。他のにもちゃんと言っとけよ」
まだ、入学して、3ヶ月程しか経っていないが、以前はもっと色んなやつらが来て、人数ももっと多かった。今日のやつらは、生徒会か何かそんな感じのところに所属していて、俺の周りのことも統制を取ったらしい。人が減ったのはいいけど、本来の自分の仕事をこなしているのか心配になる。
「でも、学校では、全然話してくれないじゃないですか。放課後は澤田のところに行ってしまうし」
「本当です。澤田先生と何しているんですか。いやらしい事してないですよね」
基本的に学校では、俺は確実に彼女がいるような、健全な男としか話さない。県一の進学校だが、ここの学生を見ると、こうも自分の欲望に実直なのかと感心する。それとも、男子校の成せる技なのか。
「馬鹿か。澤田は結婚してるし、澤田にそんな趣味はない。ただ、研究の手伝いをしているだけだ」
「じゃあ、僕たちも一緒に手伝ってもいいですよね」
「ああ、手伝ってやってくれ」
放課後の予定は、後で組み直そう。終わりの無さそうな連中の声を無視しながら、朝ごはんを食べに戻ろうと、家に入る。今度、近所の人たちに謝っておかないと、と憂鬱さが上がる。
ラジオの掛かったダイニングで、父がごはんを食べていた。母はもう食べ終わったみたいだ。別の部屋で、テレビのアナウンサーのファッションチェックをしている。
「ねえ、宮野さん、今から少しだけ借りていい?」
ごはんと味噌汁をテーブルに置きながら、父親に聞いた。
「宮野は別にいいけど、面倒になったら、外の子達を通報していいんだぞ」
親の意見ながら、高校生相手にそこまで可哀想なことは出来ない、と冷静になった頭が反応する。
電話で宮野の番号を探す。宮野は両親のお抱え運転手だ。両親はというと揃って、同じ大学の教授をしている。
福利厚生で車付き運転手がもらえるそうで、それが宮野なんだが、父も母も運転する方が好きらしく、めったに利用しない。
俺が使うのも、宮野自身、何も文句を言わないので、頻繁に呼んでいる。
「宮野さん、おはようございます。すみません。急なんですが、40分に来れますか?」
雇い主の息子を学校まで送るだけの仕事。宮野はどう思っているのだろうと、ふと考える。すまないなんて思っていないが、その後すぐ「分かりました」と聞こえた。端的な返事に「お願いします」とだけ言って、電話を切る。
そもそも、学校までは車で通うような距離ではない。この高校に進学することになって、学校まで徒歩10分のところに家を購入したのだ。
中学まで住んでいた家も、母方の祖母の家が近くにあって、そのまま売らずに置いてある。そこからでも電車通学できるのだが、電車の中で絡まれることを予想すると、親の過保護も良かったのかもしれない。
ごはんを食べ終わり、制服に着替えたり、と登校の準備が終わった頃、駐車場に車が到着する砂利の音がした。時計はぴったり40分を指している。宮野に時間を指定すると、遅れることも早く来ることもない。ただどこに居ても今から来いと言うと、5分以内に来たりするので、どうなっているのだとも思う。
「じゃあ、行ってきます」
今日はゆったりと過ごしている2人に声を掛けて、外に出た。やっぱり、まだ居るんだな、と先程の学生たちを視線の端に見た。何かを言っているのは聞こえるが、そのまま無視する。
宮野が車の後部座席のドアを開けたので、礼を言って入り込む。家の門を出る時にも、緩やかな運転で進む。
以前、しれっとした顔で、家の前の学生たちに車をぶつけようとしたので、きつく注意したことがある。運転手にあるまじき行為だし、俺の家族にも迷惑が掛かると。
感情がほとんど顔に出ない宮野も反省したのか、それからはヒヤッとする運転は見ていない。
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