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兄ちゃんなんかじゃない
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今朝のことについて、石井先生に呼び出された。
…やっべ。職員室って、チョー苦手。
だってさ、俺が入ってくるなり皆して俺のこと見ンだぜ?
……そりゃさ、ご迷惑はかけてるけどさ。
教科担任の先生とか、『まぁたかぁ!波嶋ぁ!』なんて笑いながらからかってくる。
苦笑しか出ないっつの!…いや、まぁ俺が悪いンだけどサ。
「……来たか。波嶋」
石井先生の席まで行くと、先生はクルリと椅子を回転させる。…説教は慣れてるけど…なんだかなぁ。
この先生って、目付きキツイ気ぃすンだよね。もーチョットにこやかに笑った方がいいと思うのよ!
「…お前なぁ。武山先生から聞いてはいたが、本当に問題児らしいな」
ふうっと溜息を吐き出される。……悪うごさんしたねぇ!問題児でっ!!
少しムッとする。だってさ?そんな疲れきった顔しなくてもいーだろ!…これから、散々問題起こされるんだな…とでも思ってるワケ!?ムカつくっ。
「……なんだよ。そんなに毛ぇ逆立てんなよ。猫かお前は」
俺が睨んでいた事に気づいたらしい。
ふっと小さく笑みを浮かべる先生。…そりゃ警戒すンだろ!それに、人を猫扱いすンなっての。
…つーか、笑えるンじゃん。
意外っつーか…なんだろ。
誰かに似てる?見たことある、かも。
少しむずかゆくって、視線を逸らす。
ふと、あるものが目に飛び込んで来た。
「…キーホルダー?」
スマホについてる小さなクマのキーホルダー。随分、薄汚れたとても古いもの。少し、不似合いなそれ。
「ああ。それは貰い物」
先生は、可笑しそうに笑う。
…大事なものなのかな。
「昔住んでた所で近所だったガキに貰ったんだよ。そいつさ、気に入ってた癖に俺にやるって煩くって」
指で転がし、触る。
懐かしむその表情は…なんだろ、…あれ?
「その子とは、もう会ってないわけ?」
それとなく聴く。視線は下にさげて。
…まさか。そんな筈ないだろ。
「まぁな。10年くらい前の事だし。そのガキ、生意気だったしなぁ。俺に離れねぇし、少し鬱陶しかったな」
先生の表情は見えない。
…見たくない。
「俺が引っ越すって言うと泣くわ喚くわ?…やっぱし、ガキの面倒は疲れるし大変だっての」
拳に力が入る。……あー、そうだろうよ。あんたに比べたら俺なんてガキだったろうさ。だけどそれは昔の、ガキの頃の話だ。
「ま、お前も充分ガキだけどな?俺にあんまし迷惑かけるなよ?」
ポンポンと頭を数回たたかれる。
笑う声がその言葉が、ぐるぐる俺の中を掻き乱す。
「…っ」
昔のあの時の光景が蘇る。
なんだよ、なんだよ。
…俺の事そんな風に思ってたのかよ。
なんで今頃こんなこと知らなきゃいけないンだよ。そんなら、それならさ、あの時にあの時の俺にさ直接言えよ。言ってくれたらさ、あんなに付きまとったり、しなかったのに。
懐いたりなんか、しなかったのに。
…俺だけが、あんたのこと兄ちゃんだって思ってたのか?あんたにとってのさ、俺って。
……どんな、存在だった?
「…そっ」
パシっと先生の手を払いのける。
俺の心、なんか…グチャグチャ。
懐かしい、大切だった思い出。馬鹿みたいだ、俺だけが綺麗に美化なんかして。
「あっそ …あっそ…っ、あっそっ…!!!」
声が感情が、爆発する。
なんだってンだ!!悪かったな!気が付かなくってさっ!!さぞご迷惑だったでしょうねっ!
石井のヤローは目をまん丸くして俺を見ている。アホくさい、バカっツラ。
「…波しま…『大っ嫌いだ、あんたなんて…っ!…あんたなんて、兄ちゃんなんかじゃないっ…!!!』」
そのまま走り出す。
真っ白の俺の頭、そして真っ暗な俺の心。
「くおっらぁー!!波嶋ぁ!!!待たんかぁー!」
教科担任のゴリ先生が遠くで叫んでる。
知らない、そんなの。
俺の足は止まんない。此処から、あいつから離れたい。会いたくない。…顔も見たくない。
「っ、はぁ…」
息が上がるほど全力疾走。
苦しいのは、息?それとも…。
「心臓、いたい」
チクチク。ズキズキ。
痛くて、ムカついて、気持ち悪い。
俺の中の尚兄ちゃんの顔。
みんな、全部笑ってる。
俺だけに笑ってくれる。
嘘つき。嫌いなら、笑いかけンな。
焼ける様に痛む喉。
視界が滲む。
もう一歩も歩けなくって、俺はその場にしゃがみ込んでしまった。
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