アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
願いは叶う
-
「……へ?数学準備室、ですか?」
「そうそう。石井先生、今三年生の生徒授業で持ってるでしょ?忙しいのよ」
職員室に来てはみたものの、肝心の尚兄ちゃんは居ない。現国のおばちゃん先生に聞いてみると、冒頭の会話が帰ってきた。
…なンだよ、俺の事呼び出しておいてさ。
忙しいなら、俺に構ってる暇ないじゃん。
おばちゃん先生はお茶をすすりながら、話を続ける。
「石井先生大変なのに、クラスの担任代理なんて引き受けちゃって。ほんと熱心よね」
その言葉にあっと思い出す。
……変わンねぇなぁ。
一杯一杯なクセして、なんでも引き受けちゃう、お人好しなところは昔から。
職員室を出て、早々に数学準備室へ向かう。
…数学準備室って確か、四階だったよな。
階段上がンのキツイ。…あれ?そういや、四階って一年の階…だったよな。
(…なに、ビビってンだよ俺。そんな簡単に会うわけねーだろ)
「やっべ、時間ない!急がないと」
駆け足、もうすぐチャイムが鳴る。
階段を段飛ばしで駆け上がる。
その時、四階に到着する前に、何かにぶつかり、俺の身体はするりと宙を、舞う。
「…っ…!!」
そのまま、段を踏み外し、身体は下へと落下する。お、落ちる…!!!
「………あ、っぶねー…」
頭上から降ってきた声は、大きな息を吐き出す。間一髪じゃん、と愉快そうにけれど震える声で呟いていた。
俺はぎゅっと瞑っていた目をそっと開ける。
……?あれ、助かったのか。俺。
しかし、目の前の光景に俺は、ぎょっと驚ろいた。腰に腕を回され、俺の腕を掴まれていた。その目の前のには、こいつの、顔。
「お、まえ!!一年のクソヤロー…!!」
目を大きく見開き、わーわーと叫ぶ。
このヤロー!!またなんか姑息なマネしようとしてンじゃねーのか?!あぁ?!
「ちょ、暴れないでゆうき先輩 。危ないです!!それに、俺は何もしませんって!」
一年のヤローは暴れる俺の腕を掴みながら首をぶんぶん横に降る。
そして、そのまま俺の身体引き上げる。
「…礼は言わないからな」
するりと、俺の身体から手を放す。
俺は目線を逸らしたまま、ぼそっと呟く。
…許したワケじゃない、よく憶えてないけどフジを泣かせるヤツはキライだ。
…それと、少しだけ、こいつの体温が、怖い。
ちらりと一年に視線を向けると、やつはバツが悪そうな困った様なそんな顔で悲しそうに眉を下げる。
「……露骨に怯えられると、傷付くんですけど」
ぽりぽりと髪を掻く仕草をしては、一年もまた俯く。俺が、怯えてるって?なんだそれ、…そんなわけ、ないだろ。
「…俺、急ぐから」
逃げるわけじゃない。急いでるのはホント。
俺はそのまま横を通り抜ける。けど、奴は俺の腕を掴む。その体温に、ビクっと大袈裟に肩が震える。
「…放せよ」
ドクドクと心拍が速くなる。
冷や汗が背中を流れる。なんだこれ、なんなんだよ。
「…ほら、やっぱり。震えてる」
一年は、真剣な表情で俺を真っ直ぐ見詰める。その瞳がフジと重なって、戸惑う。
けれど、体温が違う。こいつの手は熱い。体温が熱くて、熱くて。身体はなんでか、震える。
「放せっ…!何もしないって言った!!」
………触るな。俺に、これ以上、触るな。
「…嫌だ。放さない。ゆうき先輩逃げるでしょ」
きつく、掴まれた腕は痛い。
…熱が、伝わる。
いやだ、やだ。
俺とは違う熱が。他人の熱。
知らない、知らない熱。
何かがフラッシュバックする。
ぐるぐる、頭が、回る。
如何しようもなく、身体が震える、寒い。
たすけて、もう…無理だ。
「…こんな処で、何してる」
ぐいっと、引き寄せられる。
よろついた身体はそのまま誰かの胸に飛び込む。…何事!?
「今は授業中だぞ。…そこの一年、早く教室に戻りなさい」
尚兄ちゃん…?!
頭上から聴こえる声は、少しだけ怒ってる気がするのは、なんでだろ?
「……先生には関係ないんですけど」
一年の声もぞっとする程、冷たく、怖い。
ぎゅっと、尚兄ちゃんの服を掴む。
「早く、戻りなさい」
しかし、それ以上に尚兄ちゃんの声はドスの聴いた今まで聴いた事もない声だった。
本当は怖かった。
だけど、尚兄ちゃんはそれ以上に優しく俺を抱き締めてくれてたから。
なんでか、ほっと出来た。安心出来たんだよ。
そのまま足音が遠ざかる音が聞こえた。
「尚兄ちゃん…」
そっと顔を上げる。
尚兄ちゃんはそのまま俺を抱き締めたまま、項に顔を埋める。
「…痛い、苦しいよ」
キツく抱きしめる腕は苦しい。
聞きたい事、言いたいこと、沢山あって、もう。ごちゃごちゃ。最初に会ったら、ぶん殴る筈だった。一杯、バカ!俺悪ない、尚兄ちゃんが悪い。けど、それでも好きだって。俺の兄ちゃんだって。家族だって大好きなんだって。伝えたかった。そんな言葉が、渦巻く。感情が、溢れる。
「…ごめん。傷つけて、ごめん」
なんだよ、ずりーよ。
それ言われたら、俺。どんなことだって、許してしまう。キライになれない、怒れないよ。本当に、俺ばっかりじゃん。
尚兄ちゃんの背中に腕を回す。
ぎゅっと掴む。きつく。
「お前のこと直ぐに思い出すの遅れてごめん。ひどい事言ってごめん。餓鬼扱いして、悪かった。だけど、それでも、嫌いにならないでほしい。我儘なのは分かってる」
吐息は、震えている。
「それでも、お前が好きなんだ。何時でも何年たっても、忘れられなかった。どんなに離れていても、お前を想ってた。…今でも、想ってる。ずっと」
なんだよそれ。
なんだそれ、なんだそれ。
泪が溢れそうだ、ぐっと堪える。
俺だけだと、俺ばっかだって思ってた。
だけど、違ったんだ。
尚兄ちゃんも俺と同じ気持ちだったんだ。
なんだよ、ズルい。
そんなこと言われたら、勘違いしそうになるじゃんか。
「お前が思うほどに、俺はお前のことを想ってる」
泪が、頬を静かに伝う。
想うように、願うようにどうか。
想いは届く。
願いは、叶う。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 40