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53 後日譚
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「はぁ~あ。ったく、やってらんないわよね~。私も大概お人好しよね。感謝してよ?」
翌日、営業終了一時間前に、初めて訪れた時のように飛び込みで洋子さんはやってきた。
そして、今、いつものようにヘッドスパを指名された俺は洋子さんをスパルームへ案内し、施術をしている。
「はぁ・・・。ありがとうございます?」
とりあえず、感謝の言葉を口にする。
「心がこもってないお言葉ですこと」
さすが、バレてる。
「で、あのバカとはうまくいったんでしょうね?」
「・・・おかげさまで」
「まったくよ。・・・何はともあれ良かったわ。おめでとう。ったく、あのバカときたら昔から本当に好きなものに対してだけ、不器用なのよ。他は人並み以上に出来るのに、本命にだけは昔から本当にからっきし」
「はぁ」
「タカ、遊びまくってたでしょ?」
「そうですね」
「あれ、半ばヤケになってたのよ。本命にはフラれまくってうまくいかないのに、本命以外にはモテまくるものだから」
「ふふっ。子供みたい」
「みたいじゃなくて、中身がガキなのよ」
だけど、と真剣な面持ちで洋子さんは言葉を続ける。
「あのバカが本命とめでたく両思いになれたのは私が知る限り今回が初めてよ。幸せにしてあげて」
「洋子さん・・・」
「実は、私の初恋・・・あのバカなのよ。子供の頃、優しくてなんでもできて、タカがすごく大人に見えた。だけど・・・気付いたわ。タカはね、本当に好きな人には優しくないの。つい構ってほしくてちょっかいかけていじわるしたり、どう接していいのかわからず大事にしたいのに逆に遠ざけてしまったり・・・」
ふふっ。と洋子さんは笑って続ける。
「どうでも良い人には優しいくせにね。好きな人にも他の人と同じように優しくすればうまくいきそうなもんなのに、なんか出来ないみたい。本当に、バカと言う他ないわ。不器用よね」
「ところで、昨日は洋子さんなんでタカさんの家に?」
「・・・はぁ。あのバカが電話してきたのよ。うじうじと情けない声で『どうしよう。ゆうとに嫌われたかもしんない。もうだめだ。どうして良いかわかんなくて逃げてきちゃった。』って言うもんだから、午後の授業が終わって駆けつけたってわけ」
「・・・」
それは・・・、なんというかタカさん、本当にちょっと情けないかも。
「で、あの有り様じゃない?もうなんかプッツンきちゃって、ゆうと君にも色々言っちゃったわ」
この様子だと、タカさんは相当洋子さんにボロクソに言われたんだろうな。
「もう、私を振り回さないでよね?」
「・・・はい」
俺は洋子さんを振り回してないし、どちらかといえば洋子さんに振り回されてる気がしないでもないが、怖いから口答えしない。
「あ、そうそう変に誤解させたらいけないから言っとくと、私には今愛するダーリンがいるし、あのバカのことはこれっぽっちも好きじゃないから、安心してね?」
俺が返事をする前に唐突にスパルームの扉が開かれた。
「おい、ゆうと、お前コイツにまたいじめられてないか?大丈夫か?」
「はっ。恋のキューピッド様に対してずいぶんな言葉ね」
「うっ、うるさい。俺様の大事なゆうととこの女狐を二人っきりにするなんて俺はもう心配で心配で・・・」
「誰が女狐よ!だいたいあんたはいつもいつも・・・」
あぁ、始まっちゃった。
一度火がつくと、しばらく終わらないんだよなぁこの言い合い。
だけど、このままにしておくわけにもいかない。
「タカさん、恩人の洋子さんに対してひどいですよ?まだ仕上げのお客様待たせてるんじゃないすか?俺なら大丈夫なんで早く仕事に戻って下さい」
「ゆうとぉ~」
「ほら、早く」
「うへぇ。ゆうとが冷たい・・・」
なら、行ってくる。そう言ってタカさんは俺の頭を撫でてくれた。
なんでもできるくせに、恋に対してだけは不器用で。
どうでも良いことは言うくせに、肝心なことは伝えられないタカさん。
体から先に繋がって・・・。
互いの気持ちを確かめ合うことがなかなかできずにいた俺たち。
だけど、もしかしたら俺はタカさんの気持ちに本当は気づいていたのかもしれない。
だって、タカさんはいつだって優しく愛しそうに俺に触れてくれていた。
言葉じゃなくて、体で、その指先で・・・タカさんは俺に気持ちを伝えてくれていたのかもしれない。
ほら、だって今も感じる。
タカさんの、指先から愛を。
後日、またまた不器用なタカさんが俺と一緒に暮らすべく無断で俺の賃貸契約を解約し、俺の逆鱗に触れたのはまた別のお話。
END
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