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自分で言うのもなんだが、ぶっちゃけ俺はかなり要領が良いと思う。
大抵のことは、2、3回見たら覚えるし、真似っていうのが得意だった。
もともと、『学ぶ』ってのは『真似ぶ』って言葉に由来する。
美容師の仕事はまさに先輩の仕事を『真似』することから始まる。
うまい人の仕事を真似る、見て盗む、そうやって技術を身につけモノにしていく。
今では、俺は店のほとんどの先輩のブローや技術面での癖を覚えているし、真似て完コピするのは容易い。
・・・一人、例外がいるけど。
『タカさん』
一度、タカさんのアシスタントについたけど、あの人だけは苦手だった。
なんでだろう、俺たちは磁石の同極同士のように反発し、決して噛み合うことはなかった。
・・・なんか、合わない。
端から見たら、滞りなくうまく仕事を回してるように見えてたみたいだけど、全然だめだった。
頭の中でその日の流れを組み立て、要所要所のポイントを俺が抑えあとは他のアシスタントに振り分けタカさんに仕上げをパスする・・・パス、したいのだが、そのパスがうまく回らない。
タカさんが想定外のことをする。
例えばサボる。
例えば張り切って仕上げに必要以上の時間を割く。
気付けば、どんどんどんどんズレて、うまく回すどころか詰まってお手上げ状態になる。
それでも、タカさんは持ち前のポテンシャルの高さでうまくカバーしていたし、俺も周りを巻き込んでギリギリなんとかしていた。
そもそも、タカさんは自由だった。
その時のお客様の服装に合わせていつもと違う仕上げの仕方をしてみたり、気分で仕事の運び方を変えている。
かといって、感性のみに頼った技術という訳でもなく、きちんと土台には正確な基礎を身につけているから、少し離れた所で仕事を見る分にはすごく勉強になるのだが、すぐ側でアシスタントをする身としては、タカさんの次の動きが予測出来ず、どういう流れで仕事を運び、どう仕上げていくかなど戸惑う事が多く、神経をすり減らされたものだ。
ちなみに、そんな俺とタカさんの様子をみかねた店長が、3ヶ月で担当を替えてくれた。
タカさんのアシスタントが、俺からゆうとに替わってからはうまくやっていると思う。
てか、相性ばっちり。
ゆうとは、技術先行タイプじゃなくて勘が良いというか、感性がタカさんに似てんのかな?
気まぐれで浮き沈みもあるタカさんのメンタルをうまく操り、スムーズに仕事をこなしている。
お客様にもきちんとタカさんのメインアシスタントとして覚えてもらえて、信頼関係を築けている。
最初は、そりゃギクシャクしてた時期もあったけど、今ではうちの店で間違いなく一番のベストコンビだと言えるだろう。
・・・脱線した。
そう、そもそも俺は美容師になんかなるはずじゃなかった。
高校も進学校の特別進学学級なんてのに所属していたし、大学受験のために必死で勉強する代わり映えのしないつまらない毎日だった。
父は裁判官、母は検察官という厳格で建前や世間体を大事にする家庭に育ち、当然のように両親は俺にも有名大学の法学部へ進学し法曹界への道を進むことを望んだ。
両親に反発してまで特にやりたいこともなかった俺は、なんとなく、望まれるまま勉強した。
けど、つまらなかった。
酷く、どうしようもなく・・・つまらない。
色のない世界とでもいうか、テストで良い結果を出しても達成感もなければ喜びもなかった。
ただ、過ぎていく日々。
そんな、自分の意志もなく、信念もなく、なんにもない空っぽな俺を変えたのはあの人だった。
今でも尊敬し、感謝している。
あの出逢いがなければ、俺は今でも空っぽな毎日をなんの楽しみもないまま過ごしていたに違いない。
良い人と書いて良人、よしとと言う。
名は体を表す・・・とは良く言ったもので、良人さんはとても優しい笑顔の良い人だった。
一生懸命で、ほんわかと柔らかい雰囲気の癖に芯が熱く努力家で涙もろい。
今年俺が24歳になったから、初めて会ってからもう6年になる・・・。
高校3年の夏休み、18歳の俺は当時25歳だった良人さんと出逢った。
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