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目の前にある大きな扉を蹴破らんばかりに睨みつけ、忌々しそうに鼻を鳴らした。この部屋で幾度となく不快な思いをしているアランにとって、今の気分は最悪だった。
しかしやがて覚悟を決めたのか、数回扉をノックした。
「失礼します」
間も無く、どうぞー、などと気の抜けた声が返ってきて、アランは眉間に皺が寄りそうになるのをなんとか堪えながら、扉を開ける。
視界に広がったのは、黒を基調とした落ち着いた雰囲気の部屋だった。机、応接用の革張りのソファ、そして大きなアメリカ合衆国の国旗。愛国心などないくせに、とアランは内心嘲笑する。
「早かったね、アラン」
その時、目の前の机に頬杖をついて座っている五十代ほどの男がアランに向かってそんなことを言った。
グレイの瞳に、軍人のように短く切り揃えられた髪。年齢を感じさせない鋭い瞳と、それとは対照的な穏やかで柔らかい口調が特徴的なその男は、アランを見上げて笑った。
「昨日まで任務があったから、もうちょっと遅れるかと思ったんだけど。さすがワシントン支部のエース様だね」
「ご用件はなんですか、ボス」
抑揚のない声音でアランが尋ねれば、ボスと呼ばれた男は大袈裟に肩をすくめる。
「せっかちだねぇ。俺はもっと君と話したいのになぁ」
「早急に本題に入ってくださらないなら、私はこれで失礼します。今日は本来休暇なので」
「あー、分かった分かった! 全く、若いのに短気な奴だ!」
ボスはそう言うと、机の上にあった分厚い書類をアランに手渡した。その表紙には大きく“NEO”という文字が印刷されている。
「……任務、ですか」
「そう。休暇中のところ悪いけど、早急に対処しなくちゃいけないんだ」
その言葉に、アランは僅かに顔をしかめた。労働組合に駆け込んだら、裁判くらいになら持ち込めるかもしれない。先ほどのリリィのジョークを思い出しながら、脳内で恨めしそうに悪態をつく。
それからアランは、NEOの文字を指で軽く弾いた。
NEOーー通称、存在しない組織。
表向きはごく普通の貿易会社“トレードインターフェース”として機能しているが、本当はアメリカ合衆国を拠点としている法規的組織である。
世界で何らかの大規模な組織的犯罪、テロが起こった場合に、各国のありとあらゆる法律を無視して行動することが出来る。その存在はトップシークレットであり、FBIやCIAなどでも一部の重役以外はその存在を知らない。
世界のあちこちに支部があり、エージェントは生い立ち、社会的地位、人種を問わない。そしてここワシントン支部のエージェントとして、アランもまたNEOに所属しているのだった。
本部から通達された任務を遂行し、テロもしくは大型犯罪を未然に防ぐのが彼の仕事である。
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