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9本目、視線。
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「紅野おはよう」
「おはよう」
いつも通りの朝。昨夜のことが未だに頭から離れないで胸の辺りがずっとザワついている。
毎日最初に声をかけてくれるのは沢木だ。
沢木からの挨拶でハッとして俯いていた顔を上げた。
「紅野くん、今日の飲み会は来てくれる?」
「ええと…今日はバイトが…」
「え〜そうなの?来て欲しいなぁ」
沢木の隣にいた女の子に声をかけられた。
性別問わず色んな友だちといるため沢木の友だちのことを誰も覚えられない。
一方的に知られていることの方が多く、彼女も僕とは初めましてでは無さそうだ。
異性に声をかけられるのは苦手というより慣れずについ目を逸らし素っ気ない態度をとってしまった。
飲み会というものは度々誘われるものの全く興味を持てないし、そういう場に行ったところで浮いてしまう気がしてならない。
「紅野ってバイトの日多くないか?」
「そうかな?沢木はそんなに入れてないの?」
「まぁ働くより遊びたいしな」
沢木らしい回答になんだか安心すら覚える。
自由奔放に生きている部分は長所でもあり短所でもあると思うけれど、なによりその“らしさ”が大切だと思う。
確かに見かける度に遊んでいる気がする。
「紅野くんってファミレスでバイトしてるんでしょ?」
「う、うん」
「えー、あたし行ってみたいなぁ」
相変わらず目を合わせられないが話は進む。
それよりバイト先を知られていることに驚いたが、きっとそれは沢木が言ったのだろう。
あまり広められるのもいい気はしないがそもそも僕に対して興味のある人間がいないと思うし…
「めっちゃいいなそれ、行こうぜ」
「えっ、沢木!?」
まさか冗談だと思っていたためハッキリ断らずにいると沢木が行こうと言い出した。
沢木のことだから本当に来てしまうと思う。
今更断れそうな雰囲気でも無く苦笑いで流すことしか出来ずまた僕は僕が嫌になってくる。
朝から今日のバイトに行くことが少し憂鬱になりつつある。
「いらっしゃいませ、何名様でしょ…沢木たちか」
「よっ!本当にバイトしてんだな」
夕方のバイトで沢木たちが本当に来た。
沢木以外は知らない人が五人。さっきの女の子がいないのはなぜなのか…
友だちの多さが羨ましいくらいに思えた。
「おお…今紅野が笑顔だった…珍しいな…」
「沢木辞めてよ、業務妨害。それに僕は笑うよ」
「ごめんってまたツンツンしだしてさー、まぁ最近は前より確かに笑ってるか」
冗談を言いつつも席へと案内をした。
その後僕がフロア内を動いてるとやたらこっちを見てきてはニヤついている。
沢木たちのせいでなんだか今日は落ち着かない…。
とはいえバイト中なため気持ちを切り替えてちゃんとテキパキ働こうと決めて、入店してくるお客さんの元へ向かった。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」
「一人。それと店員さん、笑顔が引きつってますよ」
「あっ…!」
聞き覚えのある声に改めてちゃんとお客さんの顔を見た。
まさか来るとは思ってなかった相手に驚いてしばらく見つめあったまま固まってしまった。
「さ、笹窪さん…」
「どうも。来ちゃった」
なぜよりによって今日は知ってる人ばかりが来てしまうのか、全く集中して働ける気がしなくなった。
席へと案内をした後は沢木たちと一緒で僕を見てくるためずっと視線を感じながら仕事をする羽目になってしまった。
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