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13本目、逃げる。
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「ごめんね突然」
「本当ですよ」
この人に肩を組まれたまま大学内の人気(ひとけ)のない教室まで連れてこられた。
僕は入ったことのないこの場所が普段何目的で使われているところなのかもわからない。
周りの女の子たちも沢木も着いてこず二人きりになってしまった。
こんな人気のない部屋でアルファ性の人と二人きり…危険しかない。
「俺、篠宮誠人(しのみや まさと)って言うんだ。君は多分一年生だよね?俺は二年だからよろしくね」
「…」
彼は聞いてもいないのに突如自己紹介を始めた。今すぐ出ていきたい気持ちがいっぱいで僕はその場で俯いていた。
別に名前を知ったところで、学年を知ったところでこの現状は何も変わらないし今後関わることも無いだろうに何のつもりなのだろうか。
「…ごめんって」
僕の様子を見てへらへらしながら謝られたがバカにされているとしか思えない。
そもそも知らない人に知らない部屋に連れ込まれたら誰だって参るだろうにこの人は何故それをわからないのだろう。
「君を巻き込んじゃったのは悪いと思ってるけどさー、俺のことをずっと見てきてたのが気になって連れてきちゃったんだよね」
「えっ…?」
やはり見ていたことはバレていたみたいで、今ここにいることの原因のひとつが僕にあると判明した。そうなるとこの人だけを責める気にもならなくなってきてしまう。
「やっと顔上げた。やっぱずっと見てきてたんだ?」
「…一体何なんですか」
「冷たすぎ」
「別に冷たくなんか…」
早くここからでなくてはならない。
ずっと見ていたことは申し訳ないし僕が悪いかもしれないけれど、もう解放して欲しい。
この場で二人きりはきっと危ない。
「…おこだよね?飲み物奢るから話そうよ」
「いらないです」
「いいじゃん。俺は君と仲良くなりたいよ?名前は?」
出会った瞬間から何もかもが強引でアルファ性がどうとか関係なく苦手だ。
「…」
「…じゃあ名前教えてくれたら逃がしてあげる」
逃がしてあげる?
その言い方が引っかかる。僕はやはり逃げられない状況を作られていたみたいだ。
僕のことをオメガ性だと知っているのか…?
そう思うと途端に目の前のこの人が怖くなり始めて、教える気のなかった名前を言い早く逃げられることを願った。
「…紅野歩生」
「じゃあ、あゆくんって呼ぼっかな。俺のことはしのちゃんでもいいし、まーくんでもいいよ?」
「じゃあ失礼します」
「あぁ待ってよ。釣れないなぁ。まあ名前教えてくれたからね。じゃあまたね」
名前を教えたら扉の前からようやく移動し、その隙に抜け出せた。
意外と早く離れられたけれど名前は知られてしまったし今後また会うかもしれない。
そうなるとまたこういう風に二人きりにさせられないかが心配だ。
もう名前は仕方がないと思うしか無いのだろう。
代わりにあの場から立ち去れたのだからラッキーなのかもしれない。
笹窪さんも本当はこういう人なのだろうか。
疑う気持ちとそれに対しての罪悪感がぶつかり合う。
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