アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
15本目、冗談。
-
今日は早めにバイト先に着いた。
どうにも落ち着かず、いっその事バイト先に行ってしまえば仕事モードになるかなと思ったからだ。
事務所に入る前に「よし」と気合を入れてから扉を開けた。
パッと最初に目に入ったのは笹窪さんだった。
なんでいるんだ?
今日はシフトはいってないはずだ。
「お疲れ様」
「……お疲れ様です」
笹窪さんも僕に気づいて挨拶をする。
いるとは思っていなかったためつい戸惑い言葉がスムーズに出てこなかった。
「あの…今日はシフト…」
「あぁ、人手不足で呼ばれたんだよ。昨日の君みたいな感じ」
「そうだったんですね」
「まだ時間あるからここ座りなよ」
笹窪さんは自分の横の椅子を手でポンポン叩きながらそう言ってきた。
断る理由もないため素直に座る。
さっきの出来事のせいで少し身構えてしまうのが申し訳なく感じる。
こうして横に座っているだけで全身の神経がピリつくようだ。
「連絡先教えて欲しいな」
「…え?」
「ダメかな?」
「い、いえ…大丈夫です」
そういう風に聞かれてしまうと頷くしかなくなってしまう。
笹窪さんのスマホの画面に出ているQRコードを読み込み連絡先を交換した。
物凄い速度で距離を縮めてくるから僕は完全に流されている。
もしかして断れない性格なのがもうバレているのかもしれない。
チラッと笹窪さんの方を見ると薬を飲んでいた。
「…それは?」
「ん?これは抑制剤っていうのかな。もし近くでオメガ性の人の発情期があるとフェロモンにやられてなにするかわからないから飲んでるの」
「そ…そうなんですか…」
「抑えが効かなくなるんだよ、みっともないことにさ」
「…過去に何かあったんですか?」
「…それ聞いちゃう?」
気になった事がそのまま口から出てしまった。
きっとこんなに簡単に聞いていい質問ではなかった筈なのに考える前に聞いてしまった。
確かに僕も襲われかけたことを聞かれるのは嫌だし話すつもりもない。
「あ…その、ごめんなさい」
「あはは。いや大丈夫だよ。知り合いにオメガ性の子がいて、発情期だった時に俺も向こうも薬飲んでなかったから押し倒しちゃったって話。でもそれ以上は何もしてないよ」
「…押し倒したのに?」
「その子の兄貴にぶん殴られて目が覚めたんだよ」
「殴られたんですか…」
笹窪さんも色々と経験してきているんだ…。
自分では制御が効かないという点が気になった。
発情期ってそんなに惹き付けてしまうものなのだろうか?
僕はより一層気を引き締めなくてはならないのだと自覚した。絶対に薬を欠かせてはならないのだと。
「…項(うなじ)を噛めば一生一緒っていうのも少し素敵だと思うけど…アルファ性とオメガ性のさ」
「…」
アルファ性の人がオメガ性の人の項を噛むと番になる。それは幸せな形で迎える人もいれば、望んでいない形で迎える人もいるのだろう。
一生一緒なんて存在するのだろうか。
どんなに仲良くても仲の良かった彼は僕を襲い、それまでに築き上げてきた関係は一瞬で崩れた。
そんなことなら端からお互い踏み入り過ぎずに適度な距離感を保っていたらいい。
僕はそれでいいんだ、誰とでも。
「…紅野くん」
「んんっ…!?」
笹窪さんは突然僕の項を指でなぞった。
指先でツー…と触れられて、くすぐったいその感覚に僕は鳥肌が止まらなくなる。
「うっ…あの、あ…それはくすぐったい…」
「こんな感じなのかね」
「…へ?」
笹窪さんは何かをボソッと呟いたが、自分の声のせいで上手くききとることが出来なかった。
聞き取れなかったけれど笹窪さんはほんのり笑っている…というより不気味にニヤついている。
その表情を見た時僕はゾッとしてしまった。
優しい雰囲気を纏っていたはずの笹窪さんが怖く見えてきた。
「ここ、噛んじゃおうかなー…なんて」
「っ…!?あ、あの…お手洗いに行ってきますので失礼します!」
聞こえた言葉に思わず大声を出して逃げるように立ち去ってしまった。
彼は今、冗談のつもりで言ったのだろうか?
そうだとしても冗談が過ぎる。
それとも僕が“オメガ性”だとわかっていてからかっている?試している?
僕は自分の項を押さえつつ急いでトイレに向かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
15 / 595