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17本目、警戒。
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「お待たせしました」
「あれ?私これ頼んでないですよ」
「大変申し訳ございません。確認してきます」
こういうミスがあった場合は作り直して貰うためにキッチンの人と話さなくてはならない。
仕事なのだから仕方ないと気持ちを落ち着けキッチンへ向かう。
「失礼します。注文したメニューとは違うものだったみたいなので作り直しお願いします」
「ごめん、今作り直すね」
数人がバタバタ忙しそうにしている中で、すぐに笹窪さんが来てくれた。
マスクをしていて目元しか見えないけど、目が合うと軽く微笑んできた。
僕も釣られて微笑んだものの上手く笑えていないような気がしている。
頬が引きつっている感覚が自分でもしっかりとしている。
「さっきはごめん。嫌な思いさせて。またあとで話させて」
「…はい」
笹窪さんは俯き新しく作り直しながらそう話した。その姿を見ていると、やっぱり笹窪さんは他の人とは雰囲気が違うなと感じる。
少し前の僕ならこんなことがあったらバイトを辞めて逃げていただろう。体調が悪いと言って今日も休みにしていたかも…。
けれど笹窪さんを悪い人だとは思えず心はもうさっきのことをほぼ許していた。
それどころか撫でられた項にはまだ感覚が残っていて思い出すと顔が熱くなる。
「…え?」
「どうしたんですか?」
笹窪さんは突然手元を止めて僕を見てきた。
じっと何かを確認するかのようにまじまじと見られるものだから少し恥ずかしくて目を逸らした。
「あ…いやごめん。気のせいかな。じゃあこれお願いします」
何が気になったのか…わからないけれど作り直してもらったものを受け取る。
「ありがとうございます」
何とか頑張って微笑んでみた。
笹窪さんは少し目を見開き驚いた様子だった。
そんなに笑顔が不自然だったのかな。
また六十点だった…?
モヤモヤしつつもフロアに戻り、作り直してもらったものを席へと運んだ。
…そういえば篠宮さんはまだいるつもりなのだろうか。席の方を見てみるとノートパソコンを開いていた。
そういえば沢木は「アイツさぁナンパばっかしてるかと思ったら成績優秀なんだよな。いつ課題とかしてんだよ。勉強してる姿は人には見せないらしいよ」と言っていた。
変なプライドを持っているのだろうか。
いましていることが勉強だとは限らないけど、知り合いのいない環境でやることはやっているんだなと思う。
沢木の噂話は相変わらず正しいことばかりだ。
課題をやるとかは当たり前のことだけれど、篠宮さんみたいな人が真面目に取り組んでいるのは少し意外で驚いた。
「…あ。あゆくんあゆくんこっち来て」
「…なんですか」
「今日は何時に終わるの?課題も終えたし一緒に帰りたいな」
「本当に課題してたんですね」
「あゆくん案外言うねぇ?失礼だなぁ。俺だってやることやってから色々とやってんの」
つい本音が漏れてしまったけど聞きたくもないことまで聞いて損した気分だ。
それに一緒に帰るだなんて僕はそんなことはしたくない。どうしてこんなにも執拗に関わろうとしてくるのだろうか。
「僕は最後までいるのでだいぶ遅いです。なので帰れません」
「そっかー。じゃあ明日会いに行くからよろしくね。ごちそうさま、じゃあね」
篠宮さんはテーブルの上をさっさと片付けてから席を立つ。そしてそのまま会計を済ませて出ていった。僕はそのテーブルの上の食器を片付けだす。
明日会いに来る…? とんだ大迷惑だ。
明日はなるべく目立たないように過ごすしかなさそうだ。
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