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28本目、タイミング。
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薬局に着き中に入る。
走っていたせいで息切れが激しくて、すれ違う人がみんな見てくる。
このままでは薬を買うところまで見られかねない。
とにかく白衣を着た薬剤師さんを探して声をかけなければ…。
(どこだ…全然いない…)
このままでは薬を切らしたまま発情期を迎えてしまう。
店内をグルグルと歩き回り2周目に差し掛かるタイミングで薬剤師さんを発見した。
「すみません、あの…これを…」
財布の中に保管していた処方箋を取り出して見せる。このやり取りを他の人に見られているとまずいから早く終わらせたい。
「かしこまりました。一度裏の方へ来ていただけますか?」
「…わかりました」
従業員専用の通路へと通されて狭い部屋に案内される。中へ入るとそこは壁一面に様々な薬が丁寧に陳列されていた。
薬の名前を見るからにそれらは抑制剤であり、オメガ性のものだけではなくアルファ性の薬も置いてある。
「えっと…これかな。すみません、確認お願いします」
「はい。ありがとうございます」
薬剤師さんは直ぐに薬を用意してくれた。
処方箋と薬を交互に確認して間違いがないことを伝えた。
ここの薬局は僕たちのような性に対してとても優しい場所だ。
とはいえやはり薬局で買うのは危険が伴うため病院で貰うに越したことはない。
「ではこちらでそのままお会計を済ませますか?」
「お願いします」
薬剤師さんは電卓を打ち始めた。
税込の金額を表示してくれて、僕が財布からお金を用意している間に薬を黒い袋に入れ、その上から更にこの薬局の黄色い袋に入れてくれて、パッと見では“抑制剤”だと分からないように気を遣ってもらえた。
「じゃあ丁度お預かりしますね」
「ありがとうございます」
「…またやむを得ない理由があったら来てください」
「…はい」
薬剤師さんもここで買うことの危険性をわかった上でそう言っているのだろう。
袋を受け取りまた従業員専用の通路を通り店に戻る。
薬剤師に頭を下げて店を出ようと歩き出す。
(よかった…とりあえずは薬を買えたけれど…。無くした方の薬が気になって仕方ない)
「あれ、紅野くんだ。また会ったね」
「わっ…!?」
突如目の前に現れたのは笹窪さんだった。
すぐそこに出口は見えているというのに非常にまずいタイミングで会ってしまった。
従業員専用の扉から出てきたところは見られなかっただろうか。
手に持っている薬が見られるのは厄介なことになる。さっさとカバンにしまうべきだったと遅すぎる後悔をした。
「一人?さっきの人は?」
「長野さんとはもう別れました」
「そうなんだ。あの人…オメガ性だったけどそれは知ってたの?」
「知ってますよ」
笹窪さんはさっき会った時のようにまたイヤホンを外した。そして真剣な表情をする。
「……そういう関係?」
「そういう…?」
「いや…恋人…とか」
「こ、恋人じゃないですよ!長野さんには恋人いますし」
突然何を言い出すのかと思えばとんだ勘違いをされていたみたいで驚いた。
僕が長野さんと釣り合うようにでも見えたのだろうか。
「…そっかぁ」
笹窪さんは表情が一気に和らいだ。
「あのキーホルダーも紅野くんとあの人とでお揃いでつけるのかなーとか考えてたらなんか妬けた。なんて」
「…違いますよ」
そんなこと言われると胸の奥がギュッとする。
よく分からぬこの感情のせいかこの場に居心地の悪さを感じだした。
兎にも角にも何とかしてこの場から…笹窪さんの前からいなくならないと。
「…そういえばここでは何か買おうとしてたの?」
聞かれたく無かったことを聞かれてしまった。とてもじゃないけれど抑制剤だとは言えない。
ここは上手く誤魔化すしかないみたいだ。
「えっと…少し疲れ気味で薬とかドリンク見てました」
それと早くこの買った薬を飲まなくてはならない。発情期がすぐ近くまで来ている。
今薬をきらしてしまったら…。
「買わないの?」
「えっと…もう買った…というかその…」
なぜか笹窪さんはじっと見てくる。
何を考えているのか分からなくて怖くなってくる。
もしかして疑われている?バレている?
僕がオメガ性じゃないかと思っている?
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