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29本目、……。
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「バイトに代わりに入ってもらったりしたからね。最近疲れ溜まってたのかな」
「…ですかね」
笹窪さんがじっと見てきていたのは単純に心配をしてくれていたからなのだろうか。
確かに疲れて無くはないけれど薬を飲んだりするほどではない。
咄嗟についた嘘でなんだか申し訳なくなった。
「それなら早めに帰って休んだほうがいいよ…熱とかは?」
笹窪さんは僕のおでこに手をかざした。
「えっ…」
突然のことで驚いてしまい僕は後にさがる。
熱があるか確認をしようとしてくれたのか。
だけれど急に触れられるのは慣れておらず心臓に悪い。
「あ、ごめん。言ってからの方が良かったかな」
笹窪さんは僕の手首を掴んで引き寄せた。
次の瞬間目の前には笹窪さんの顔があった。
状況が理解出来なかったけど今わかることは笹窪さんのおでこと僕のおでこがくっついてるということだ。手首を掴まれてるのもあるけれど、急にこんなに近い距離になったことへ緊張してしまい動けなくなる。
近すぎてぼやける笹窪さんの顔がほのかに微笑んでいるように見えた。
「あっ…」
上手く声も出なくなる。顔から火が出そうなほど熱くなっていることがわかる。
ここは薬局だ、他の人に見られたらどうするつもりなんだろうか。
幸い周りに人は居ないようだけれど…。
「あつー…、近いせいで照れてるの?」
笹窪さんはからかうように言ってきた。
また僕のことをバカにして楽しんでいるんだ。
なんだか急に体まで熱くなってきたように思えた。
まずい、この火照りがただの照れからくるものなのかそれとも……。
そう考え出した頃にはもう遅かったのかもしれない。
「…うそ」
笹窪さんが小さな声で呟いた。
その後すぐに顔と手を離して僕を見てきた。
急に神妙な顔をするものだから何か良くないことがあったのでは無いかと不安になる。
「……これ」
笹窪さんは僕が持つ袋を指さした。
視線を落とすと黄色い袋の中に黒い袋から半分出てしまった抑制剤が見えた。
黒い袋が簡単に包まれていただけだったためか、見えないようにしている意味が無くなっていた。
「…抑制剤、だよね。オメガ性用の」
笹窪さんの言葉に益々体が固まってしまう。
全く頭が働かない、何も言い訳が思いつかない。
それに胸の奥が疼くような感覚がしてきた。
何か言わなくてはならない。オメガ性だとバレてしまう。友だちのを代わりに買いに来たとか…言わないと。
早く…早く言わないと。そして逃げないと。
「っはぁ……体が…あつ……」
冷静さが無くなってくるにつれて全身が更に熱くなっていく。
それともこの体のせいで冷静さが無くなっているのだろうか。
「それって…発情期?」
笹窪さんの言葉に冷や汗が止まらなくなった。
これは確実に“発情期”だろう。
このままではアルファ性の笹窪さんが目の前にいるし、周りには他にも人がいる。
その上薬はあるものの飲んでからすぐ効く訳でもない。
どうしよう…体動かさなきゃ。
その瞬間、僕は頭が真っ白になりなにも考えられなくなった。
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