アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
40本目、嬉しい。
-
「…突然ごめんね。ちょっと驚かせたよね」
「い、いえ」
「お腹すいたでしょ?ご飯作るね」
暖さんはそう言い部屋を出ていく。
確かに少し驚きはしたけれど、まだ自分の中で整理がついていないため上手く返事を出来なかった。
今日は暖さんの家に泊まることになったためその中で自分の気持ちを理解できたらいいな。
「暖さん、僕も手伝います」
暖さんの後を追いかけてキッチンへ向かった。
キッチンもとても綺麗に片付いている。
コンロがIHだったり食器洗浄機があったりと自分の家のキッチンとは違い新鮮な気持ちだ。
「その呼び方やっぱいいね」
暖さんは振り向いて微笑んだ。
僕も下の名前で呼ばれた時は嬉しかったけれど、暖さんも嬉しいと思っているんだ。
僕が嬉しく思うことは暖さんも喜んでくれる。
同じ気持ちなんだ。
「……歩生は俺としたけど嫌じゃなかった?」
「え?」
暖さんは自信無さげに小声でそう聞いてきた。
「前に襲いかけた話したでしょ?その時相手がすごく嫌がってた。泣きじゃくって首を横に振り俺を強く押して逃げようとしてた。今回してる時何回かその時のことがよぎって…」
「…嫌がってなかったのに僕としてる時に他の人のことが頭に浮かんだんですか」
考えるより先に出た言葉だった。
本当は「大丈夫です」と言おうとしていたのに。
これじゃあまるで…
「…嫉妬?」
「ちっ…違います、違いますよ!」
違うのだろうか?
確かに他の人が頭に浮かんでいた点はモヤモヤしてしまうけれど、それは暖さんの過去の後悔であり思い出すのは仕方が無いと思う。
僕だってそうじゃないか。過去のことを思い出してしまうのは嘘ではない。
「嫌じゃなかったならいいんだ」
暖さんはさっきと違う明るい声色で僕を見て嬉しそうに微笑んでいた。
「嫌なんかじゃなかったです。本当に。むしろ僕は…」
「何?」
「嬉しかったです」
「…よかった」
この空気が心にくすぐったくて仕方ない。
でも嬉しくてこの時間が長く続けばいいのにと願ってしまう。
暖さんといるのはとても落ち着く。
それに僕が知らなかった世界をたくさん教えてくれる。
そのひとつひとつの全てが僕にとっては刺激的だけど楽しいと思える。
アルファ性とオメガ性という違いがあるけれど、暖さんはそれを忘れさせてくれる。
僕がオメガ性だからと常に落ち込んだ気持ちで生きていたのを変えてくれた。
「じゃあ歩生はそっちの椅子に座って待ってて」
「手伝いますよ」
「大丈夫。俺の担当はキッチンでしょ?任せてよ」
暖さんに背中をグイッと押されてキッチンを出た。
すぐ目の前のリビングに移動して椅子に座る。
キッチン側が見えるため暖さんのことを見ながら待っていようと思った。
「椅子が二個あったものの俺以外いないからそこに人が座ってるのは新鮮だよ」
「そうなんですね」
「歩生用の椅子だね」
そう言われてなんだか照れてしまう。
僕用だなんて、また暖さんの家に来ていいと言われているみたいだ。
いつかは僕の家にも招ける日が来るのだろうか?
____
「お待たせ」
「ありがとうございます」
暖さんが作ってくれたのはオムライスだった。
薄黄色にふんわりした卵の上にはケチャップで歪な記号が書かれていた。
僕が知らぬだけでなにか流行っているものなのだろうか?
僕は最近流行っていたものをいくつか思い出そうを頭をフル回転させた。
(全然わからない…!)
「なんかこういうのやるとか、カップルっぽくない?」
カップルっぽい記号ってなんだろうか?
波打つ丸い形。やはり見たことがない。
暖さんはニコニコしながら僕を見つめるがその笑顔に答えられずにもんもんとする。
「どうしたの?」
「あ、いや…」
流行りに疎い自分が憎く思える。
もっと色んなことに興味を持つべきなのだろうか。
「あー…それハートだよ」
「ハート…ですか…」
言われてみれば…という訳でもなく、全くハートには見えなかった。
やはり波打つ丸い形にしか見えない。
「ケチャップで描くの難しいんだよ」
暖さんは僕の正面に座りながらムッとした表情を見せた。
それが何だか面白くてつい笑ってしまう。
暖さんは絵が苦手なのだろうか?
また新たな一面を知ることが出来てちょっと嬉しくなる。
「全く。じゃあ今度は歩生に作ってもらおうかな」
「わかりました。僕がお手本のハートを描きますね」
「その日を楽しみにしてるよ。今はそれを召し上がれ」
「あはは。楽しみにしてて下さい。いただきます」
僕はスプーンですくって口へ運んだ。
卵が今まで食べたオムライスの中で一番ふわふわしていて、味はまろやかでとても美味しい。
中のケチャップライスは少し味が濃いめだけれど卵と一緒だとちょうど良くて相性がバッチリだ。
「すごく美味しいです…!」
「よかった」
暖さんは僕が食べるのを見てから食べだした。
その間もずっと見てきている。
こうも見られていると少し食べづらい。
そう思ってたら暖さんが笑い出した。
「どうしたんですか?」
「いや。ずっと見てたら食べにくそうにしてるから」
「そりゃ食べにくいですよ…」
また僕を見て楽しんでいたようだ。
暖さんは基本的には優しいけれど、僕を困らせて楽しむという意地悪なところがある。
なにかやり返そうと思っても何も思いつかず結局やられっぱなしになってしまう。
少し悔しいけれど暖さんが楽しそうだと僕も楽しい。
「俺は見られてても食べれるからね」
「ムッ…」
「あはは、残念だね」
じっと見返すとそう言われてしまった。
僕は暖さんには叶わないみたいだ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
40 / 595