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50本目、旅館。
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「ここだよ」
「お…おっきい…」
商店街を抜けてしばらく歩いた先で到着した。
目の前には大きな旅館がそびえ立つ。
想像より遥かに豪華で驚いてしまった。
「さっき一言連絡したから俺らが来るのは大和さんが知ってると思うんだ」
「大和さん…?」
「噂をしてるのは君たちかな」
その声に振り向くと背が高い男の人が立っていた。
黒い生地に金の花が描かれた着物を羽織り少し長めの髪は丁寧に結ばれており、まるで女性のような見た目をしている。
「あ、大和さん。おはようございます、お久しぶりです」
「おはようございます、はじめまして」
「いらっしゃい。はじめまして。僕はここで働く椿屋大和(つばきや やまと)と言います」
「僕は紅野歩生です…」
「二人でくるって言うから女の子とかと思ったら男旅なんだねぇ」
「まぁね。大和さんこれ、言ってた割引券」
「了解。今案内するよ」
物腰柔らかな大和さんはずっと優しい笑顔で対応してくれた。
見た目がお綺麗だと思っていたら名前まで素敵だった。今まででこういう雰囲気の人は初めて見た。
そして僕たちは大和さんの後について行く形で旅館へ入っていく。
「いらっしゃいませ」
入るなり着物の女の人が出迎えてくれた。
中はとても広く暖かくてなんだかほんのりといい香りがしている。
なんの香りかがわからなかったけれど、とても落ち着く。
その後、僕の横を通りかかった宿泊客からも同じ香りがしていたためこれは温泉の香りなのだろうか?
「このお客様たちはあの間にご案内お願い。暖くん歩生さん、僕は用があるからお先に。ごゆっくりしていってね」
「はい。ありがとうございます」
言葉の節々に訛りがある大和さんは小走りでどこかへ行ってしまった。
初めての旅館ということもあり緊張で硬くなってきてしまう。
とりあえず暖さんの隣にベタつきして何とか緊張を落ち着けようとする。
「それではご案内致します。こちらです」
女の人の後に続いて歩いていく。
その途中では何人もの宿泊客とすれ違い、ここは人気な旅館だということがわかった。
朝から温泉に入ってきたであろう人や、僕たちみたいに今日から宿泊予定の人…とたくさんいる。
階段を登るとさらに奥の部屋へと通される。
「こちらです。ごゆっくりどうぞ」
襖を開けてもらい暖さんの後に入ると、そこは想像以上に広い部屋で驚いた。
部屋により和洋室分けられていると冊子には書いてあったけれど、ここは両方兼ね備えられていた。
「わっ…広い…」
「部屋の外に温泉もついてるんだよ」
「…すごいです」
窓の方へ向かうと、暖さんが言う通り小さめの温泉が着いていた。
浴槽が大きな枡で出来ている。
これはヒノキ温泉というものだろうか?
「んー!やっと荷物おろせるね。階段きつかった」
荷物を肩から下ろして伸びをしながらそう言う暖さん。
僕も暖さんの荷物の隣にカバンを置いた。
「ちょっと休憩しよっか」
部屋の一部が畳になっており、底にはちゃぶ台と座布団が用意されていた。
対面になるようにお互い座り一息つく。
僕はスマホを開いて長野さんに連絡をした。
今日この楽しい時を過ごせることを誰かに知らせたかったからだ。
(こんなにワクワクしたのはいつぶりだろう…)
長野さんからはすぐ返事が返ってきた。
『おはよう歩生くん!
温泉旅行羨ましいなぁ。
二日間楽しんでおいで!
時々お話聞かせてね。それとオマケです』
写真も一緒に送られてきていて写真に写っていたのは長野さんの番相手の人の寝顔だった。
なんだか微笑ましくなる。
「歩生なに嬉しそうな顔してるのー…」
暖さんはスマホを片手に僕を見ながらそう言ってきた。
「長野さんに今日のこと伝えたら楽しんでおいでって言われたんです」
視線をスマホから暖さんに向けてそう言った瞬間シャッター音が鳴った。
「え…?」
「歩生の笑顔の写真撮っちゃった」
暖さんは笑いながらスマホ画面を僕に見せた。
「と…盗撮です!」
「スマホの壁紙にする」
「そんなの恥ずかしいです!」
その写真は確かに恥ずかしかったけれど、自分がこんなに笑顔になれていたことに少し嬉しさがある。
鏡を見る度暗い表情しか見ていなかったため、自分の笑顔を見るのは新鮮だった。
これも暖さんがいてくれるおかげなのだろう。
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