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52本目、卓球。
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部屋を出て旅館の中を歩くと、外観で見ているよりも広く大きくてこの二日間ではとてもじゃないけれど道を覚えられそうにはない。
「腰は痛い?」
「いえ、今は大丈夫ですよ」
「よし、じゃあ卓球しよう」
「卓球…」
到着した広間には卓球台が複数台設けられていて、遊んでいる子どもが何人かいた。
ラケットと球を持って台を挟み対面で立つ。
そういえば暖さんはスポーツは好きなのだろうか?得意なものはなんだろうか?
誘ったということは卓球は得意なのだろうか。
「よし、いくよ」
「えっ!は、はい…」
卓球なんてやったことが無くてかまえ方すらピンとこない。高校の頃は体育の授業内容は選択方式だったが卓球を選択したことは無かった。
こんなことならやっておけば良かった…!
暖さんが空中にオレンジ色の球をあげると、素早くラケットを振った。
(くる…!)
と思ったが球が見当たらない。
「あれ?あ、落ちてた」
「もう一回ですね」
「久しぶりすぎて感覚が掴めなかった」
暖さんは球を拾うとさっきと同じように空中に上げてラケットを振る。
今度は真ん中に張られているネットにぶつかった。
久しぶりと言っていたから二回や三回失敗することはあるだろう。
「ごめんごめん、次は平気。感覚掴めた」
「わかりました」
そう言ったもののまた球は暖さんの足元に落ちた。
もしかして卓球は不得意なのだろうか?
僕は今日が初めてだしまだ卓球の難しさを理解していない。
そんなに難しいものなんだ。
____
「あはは…全然できないね」
「難しいです…」
暖さんが打つ球が僕の方へきた時は僕が上手く打ち返せなかったり、何とか返せた時は暖さんが明後日の方向へ飛ばしたりしてまともにラリーすら続かぬまま三十分が経つ。
最初こそ失敗の度にケラケラ笑っていたもののお互いわかりやすく飽きがきている。
「やめる?というかやめよう」
「そうですね。難しかったです」
どちらかがやめようと言うまで待ってたような状況だった。
しびれを切らしたのか暖さんが言ってくれた。
「はぁーっ…できないもんだなぁ…」
「初めてで難しかったです」
「へぇ。卓球初めてなんだ。そしたら余計に難しいよね」
そう話しながらラケットと球を元の位置へと片付ける。
少し動いたからか腰の痛みが気になってきてしまう。
なんの意味も無いだろうと思いつつも手で腰を摩る。
「痛い?」
「いえ。そんなには」
「そっか、そうだよね…。無理のない程度に時間使おうか。もうすぐお昼だし近くのお店にでも行こう」
「暖さんに濡らされた髪もだいぶ乾いたので」
「ごめんってば」
二人で笑いながら手を繋いでまた宿泊をする部屋へと向かった。
途中すれ違う人は僕らの手を見て驚いたような顔をしていたが、暖さんは全く気にしていない。
だから僕も気にならなくなってきている。
部屋に戻り財布やスマホ、貴重品を持ってまたすぐに部屋を出る。
「何食べようか。すぐ思いつくのは蕎麦、うどん、天丼とか」
「お蕎麦が食べたいです」
「いいね。じゃあ、あそこかな。行こう」
こういう雰囲気の街で食べるお蕎麦も憧れていた。家族揃って出かけることがなかったためか、旅行番組や雑誌を見る度に想像ばかりが膨らんでいた。だから今こうして自分自身が今まで見てきた憧れを体感できていることが非常に嬉しい。
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