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66本目、信頼関係。
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ぐちゃぐちゃになった布団、散らかっている浴衣や下着。それらを横目に二人で抑制剤を飲んだ。
そしてまた体を洗い直そうと部屋の外についていたシャワーを使うために外へ向かう。
「結局旅館でもしてしまった…」
「本当ですね」
「俺はのぼせて横になってたのになー」
「ご、ごめんなさい…」
「あはは。これに関しては共犯だね」
確かに僕はのぼせてしまい具合が悪くなっていた暖さんに欲情したんだ。
行為中は夢中で忘れかけていたけれど、今後は発情期だとしても気をつけなければならない。
でも抑制剤が切れてしまい発情するとこんなにも自分でセーブをかけられないのだと改めて実感した。
ところ構わずこんなことになってしまっては暖さんを困らせるだけではなく無理をさせてしまう。
「…歩生、本当に気にしてないよ。もう水を飲ませてくれた時点でだいぶ楽だったし流石にキツかったらしてないから」
「えっ…すみません…。でも気をつけます」
「それはダメ。歩生が求めてくれたのが嬉しかったから」
暖さんはそう言いながらシャワーを手に取り温度を調節し出す。
いつも優しいからそう言ってくれるけれど、完全に甘えてしまってはそれこそいつか暖さんが疲れてしまい嫌になるかもしれない。
いずれにせよ抑制剤は欠かせずに飲んでいかなければならないだろう。
暖さんのためにも、僕のためにも。
「っわ…!」
お得意の悩み事をしていたら突如シャワーをかけられてしまった。
「何考えてるの?もし今のことなら俺は本音しか言ってないつもりだから素直に受け取って欲しいな」
「…ありがとうございます」
「うん。じゃあこっちきてここに座ってよ」
指をさされた風呂用の椅子に腰をかける。
そしてそのまま頭からちょうど良い温度のお湯をかけられる。
「無理させてごめんね。歩生が気にしてる分俺も気にしてる…って言えば少しは気が楽にならない?」
「え…?」
「歩生だけのことじゃなくて俺ら二人のことなんだから一人で考え込まないでいいんだよ」
「わかりました。ありがとうございます」
わしゃわしゃと頭を洗われながら僕は心がホッとした。
暖さんはまるで僕の思考を読めているかのよう。きっと僕がネガティブだったりマイナス思考なのを理解してくれているから安心できるように言ってくれているんだ。
「僕はこうして一人の人と関係を深めるのが初めてで何も分からないんです。今までなるべくお互いの距離が近づきすぎないように過ごしてきたので…」
「うん。俺も初めてだよ」
「暖さんがそう言ってくれるからすごく安心します。僕は僕でいいんだなって思えるんです」
自分の存在を肯定してくれる人がいる。
それは僕にとって非常に大きく大切なことだったみたいで、今は物凄く生きていて良かったと思えている。
オメガ性だからとかそんなことを気にせずに、僕は僕らしく“紅野歩生”としてありのままでいいんだって教えてくれたのも暖さんだ。
「歩生はそうやって言うけどさ、俺も歩生のおかげで今は楽しいんだよ。自分がアルファ性だってことも嫌だったし毎日何度もそれのせいで色々考え込んでたから。でも俺の事をアルファ性としてじゃなくて俺として見てくれてるでしょ?」
「…はい。暖さんは暖さんだから」
「そういうこと。俺からしても歩生は歩生なの。生まれた頃から持っていて切り離せない性だけど、そんなの忘れるくらい楽しいんだよ」
僕の気持ちも全く同じだった。
自分が“オメガ性”であることを忘れてしまえる日が来るとは思っていなかった。
もちろん暖さんのことを“アルファ性”として見ている訳ではなく暖さんは暖さんとして見ている。
今は発情期だからどうしても自分の性を考えてしまうけれど、そんなことどうでもよくなるくらい幸せな時間を過ごせている。
「流すよ、目閉じてて」
「ありがとうございます」
頭から体へ、そしてそのまま地面まで泡が流れていく。
本当はオメガ性じゃなくなりたい。その気持ちは変わる訳では無い。
社会的な地位だったり、特殊な体質だったり…それらをプラスに捉えられる日は来ないかもしれない。
このままオメガ性という現実も泡とともに水に流れて消えてしまえばいいのに。
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