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67本目、前髪。
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頭を流してもらった後に濡れた髪をかきあげた。普段前髪が少し目にかかっているせいでこうしてみると視界がとても広く思える。
(僕って普段こんなに見えてなかったんだ…)
何だか外も普段より明るく思える。
太陽ってこんなにも眩しかったっけ。
「前髪を上げたら歩生の顔がすごく見えていいね」
「は、恥ずかしいから嫌ですよ」
僕が前髪を気にしていたことに気づいたのかそう言われて恥ずかしくなり目を逸らした。
顔全体をしっかり見られるのは慣れていない。
気持ちが落ち込み出した高校生の頃から少しでも顔が隠れるように伸ばし出したからだ。
「普段歩生は前髪で目が半分くらい隠れてるよね。なんでそんなに隠すの?」
「…前に話した元友人が…少し」
「少し何?」
髪の毛で顔が隠れてないせいか、それとも話しにくい内容なせいか上手く言葉が出てこない。
それでも色々思い出し何とか言葉を探す。
「やっ…その…」
「ん?」
「お前は男なのに妊娠するキモイ性質なんだから顔は隠してろよ。そうすりゃセックスの時に男の顔見えなくていいだろって言われたり…。それ以外にも女々しい顔、よくその顔で歩けるよな、目も鼻も口も見ててむかつく…とか言われてどんどん自己嫌悪が激しくなって髪で隠したのかもしれないです」
スラスラと出てくるくらいには僕の中にしっかり刻まれ消えぬ言葉たち。
今でもたまに思い出しては嫌な気持ちになる。
改めて口に出してみると本当に酷いことを言われたと思う。
自分でも言いにくいくらいツラい言葉たち。
言った本人はもう覚えていないかもしれないけれど、言われた側はいつまでも根に持ってしまうものなんだ。
「…綺麗」
「え?」
「歩生は綺麗だよ。俺が歩生を好きだからとか抜きにしてもそう思ってる。歩生は言い返さないしやり返さないから…」
「そ…れは…言い返したら暴力ふられる…からで…」
僕は確かに何も仕返しをしてきた事がなかった。ムカついたし悔しかったけれどそれ以上に怖かった。
何かしてしまったら言葉だけでなく暴力まで振るわれるかもしれないという気持ちのせいで言われたい放題で終わってしまっていた。
「とにかく俺は…いや。みんな歩生のこと綺麗だって思うよ。自信持てとまでは言わないけど自分を責めないでね」
「っあ……いや…えっと…」
あまりにも“綺麗”と言われるものだからなんて言っていいのかわからなくなる。
暖さんは真剣だし、僕は僕をそうは思えないから複雑な気持ちだ。
けれど嫌だとかは全く思わない。むしろ嬉しかった。
「照れてるの?」
前髪を上げていて無防備なおでこにキスをされた。口にされた時と同じくらいドキドキしてしまう。
普段人に見せないようにしていた部分だからだろうか?
前髪を上げた僕は気持ち的には裸も同然なのだろう。
「髪の毛少しだけ切ろうよ。今のままだと目が隠れ気味だし」
「…でも」
「…気が向いたらでいいからね」
今まで必死に隠してきた部分を出すのには勇気がいる。
また誰かに同じことを言われては自己嫌悪に陥るかもしれない。
けれど…切ってもいいかもと思う僕もいた。
暖さんが褒めてくれて、優しくしてくれて、自信を持たせてくれるから。
それにこの方が暖さんの顔もよく見える。
二人で見る景色もなにもかも。
「暖さんが…」
「俺が?」
「…そう褒めてくれるなら…いいかもなんて」
「本当?切ってくれたら嬉しいけど無理はしないでいいからね」
あくまでも僕の気持ちを尊重してくれる。
僕の気持ちが向くまで待っていてくれる。
暖さんほどの優しさを持つ人に出会えて、僕は変われるかもしれない。
この暗い性格も少しは明るく前向きに…なれるかもしれない。
本当はもっと楽しいことを考えたりしていたい。この性のせいで何もかもを台無しにしたくはない。
一人ならまだしも今は暖さんがいてくれるのだから尚更そう思う。
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