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74本目、紫色と青色。
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流石に今回はサッとシャワーで全身を流してお湯には浸からずにすぐに出た。
気づかない間に時間もだいぶ経っていた。
「付き合いたてのカップルって感じだね」
「そうなんですか?」
「なんとなくそう思った。エッチなことばっかして」
「…そ、そうかもです」
暖さんは微笑みながら僕の頭をタオルでわしゃわしゃと撫でてくる。
散らかって視界を隠してくる髪を自分で整える。
「夕ご飯まであと少し時間あるし新しい浴衣を貰いに行こっか」
「そうですね、もうくしゃくしゃですしね」
そのくしゃくしゃな浴衣を着たまま部屋を出た。
旅館の入口すぐ近くには浴衣と枕が沢山並べられており、そこには“御自由にお取り下さい”と書かれた札が置いてある。
見渡す限り色々なサイズやデザインの浴衣と、色々なサイズと質感の枕がある。
「歩生のはこれがいいな」
「これですか…?」
暖さんは迷わずすぐに手にしたのは浅い紫色の花が大小何個も描かれた浴衣だった。
老若男女誰が着ても違和感のないようなデザインでとても素敵だ。
それを受け取り濃い紫色の帯も手に取る。
(暖さんにとっての僕への印象はこのカラーなのかな)
僕も暖さんの浴衣を選ぼうと端から端へと一通り眺める。
そして、特に目に入った深い青色の花がたくさん描かれた浴衣を手に取り暖さんに渡す。
「俺の分を選んでくれたの?ありがとう」
「僕のを選んでくれたので」
「あはは、なんか少し照れくさいかも。じゃあ部屋に戻って着替えよう」
暖さんは深い青色の帯を手に取り、来た道を戻ろうと振り返った時に大和さんが後ろに立っていた。
「わっ…!」
「あぁ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだけど」
「大和さん居たんですね」
「今ちょうど来たところだけどね。でも仲睦まじいご様子で」
大和さんはニヤニヤしながら暖さんのことを見る。
「暖くんがこんなに誰かと親しくしてるのは初めて見たかもなぁ」
「そうですか?いや……そうかもしれないです」
「歩生さんは違うんだね」
「……違います。歩生は歩生です」
“僕は僕”
そう言われても何の話をしているのかさっぱり分からなかった。
大和さんは穏やかに、だけど真剣な表情に変わり僕と暖さんを交互に見る。
「うんうん。雰囲気からいい子ってのが伝わるよ」
「あはは、そうでしょう」
「な、何の話ですか…?」
「あ、ごめんね歩生さん。暖くんはアルファ性でしょ?やっぱり腫れ物扱いって受けるものなんだよね。寄ってくる人は大抵仲良くなりたいとかそういうんじゃないだろうね〜っていうのがあって」
暖さんは確かにアルファ性とはいえ上から目線では無かったし、なんなら暖さんは暖さんで悩んでいた。
アルファ性だからと受ける扱いに対して疑問を抱いていた。
「歩生は……なんで俺といるの?」
「え……?」
そう聞かれて固まってしまった。
“好きだから”と答えるべきなのか“暖さんだから”と答えるべきなのか。わからなかった。
「あー…こら、暖くん」
「俺がアルファ性だから?」
暖さんは僕の目を真っ直ぐと見つめる。
その目を見ていると試されているようで怖かった。
多分色々思い出してしまい不安になっているのだろう、でもなんて声をかければいいのかがわからない
「……僕は…」
「暖くんってば!歩生さんは歩生さんなんでしょ?」
僕もオメガ性だからと何度も悩んできた。
アルファ性のことを順風満帆な自己中心的な人間だと思ってたけれどそうじゃないと暖さんは教えてくれた。
自分のことでいっぱいになっていた僕は自分以外の人の悩みに気づけなかった。
「…あ…ごめん」
アルファ性にも特有の悩みはある。
誰もが全員アルファ性であることに満足をしている訳では無い。
暖さんは片手で目を覆い軽いため息をついた。
「本当にごめん、歩生のことは信じてるんだよ」
「は、はい…その、わかります。僕もわかります」
「…ありがとう」
「よし。暖くんは歩生さんといれば大丈夫だと思うな。だから部屋に戻ってそれに着替えて夕ご飯が来るのを待ってなさい」
大和さんはニッコリと優しく笑うと暖さんと僕の頭をポンと撫でる。
その言葉通り部屋に戻ることにした。
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