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77本目、精神安定剤。
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外は木々が生い茂っていてその中から小鳥のさえずりが聞こえてくる。
目でも耳でも楽しめるからかずっと眺めていられる。
「……抑制剤飲もうかな」
まだ早いかもしれないが飲まないに越したことは無い。
僕はカバンから抑制剤を取り出して口に含んで水で飲み込む。
ザワザワしていた気持ちが薬を飲んだことによって落ち着く気がする。
何もかもが気の持ちようなんだろうけれど、飲んでおけば大丈夫だと思えた。
でも飲みすぎたらあの日みたいに…。
「…思い出すな、忘れろ」
薬にばかり頼っては、自分がオメガ性だから何も上手くいかないのだと全てに苛立ちを覚えては毎日感情の起伏が激しく生きにくい日々を過ごしていた時期がある。
今思うと情緒不安定だったのだろう。
そのせいか三ヶ月に一度しか来ないはずなのに発情期以外でも体がおかしくなっていてその期間は家にこもりっぱなしだった。
最終的には抑制剤の飲みすぎで緊急搬送をされてしまったり、病院を転々として精神安定剤を貰ったりした。
「僕は正常だ」と反発して飲まないでまた自己嫌悪で苛立ち結局薬を大量摂取する。
「ダメだ、思い出すとまた…」
「どうしたの?」
「あっ…おかえりなさい。なんでもないですよ」
「……またひとつ歩生のこと知っておきたいな。これに関しては、特にね」
考え込んでいたせいで暖さんが戻ってきていたことに気が付かなかった。
暖さんは優しい声と顔でそう言ってくれた。
そういう風にされては断れない。
でも過去の僕が万年発情期の精神異常なオメガ性だったと知られたら?
嫌われたくない。
僕はまた視線を窓の外に逃がした。
暖さんは構わず後ろから抱きしめてくる。
「……俺が守るよ。教えて」
無理やりな気もするけれど、これが暖さんの愛情表現なんだ。信用していい。したい。
僕はひと通り話すことにした。
____
「そうだったんだ」
「…はい」
「もう平気なの?薬飲みすぎたりなんてことない?」
暖さんは僕の話を聞いて引くどころか心配をしてくれた。
多少引かれることは仕方ないと思っていたけれどそんな素振りは全くない。
「大丈夫です…」
「ならよかった」
暖さんはまた優しく笑う。
僕が話している時はずっと静かに相槌を打ちながら真剣に聞いてくれていた。
どうしてそんなにも優しくいられるのだろう。
「今は冷静になれているのできちんと薬の飲む回数や量を守っていますし、精神安定剤はもう貰ってすらいません」
「…そっか。俺は薬に頼ることは悪い事だとは思ってないよ。ただ過剰摂取してしまって歩生の体に危険が及んだら悲しいかな」
「…すみません」
「謝らないでよ。過去の話なんだから。悲しいっていうのは事実だけど今はこうして隣にいてくれてるし」
「ありがとうございます」
あの頃の僕は酷い孤独感があり、それも含め自暴自棄になっていた。
僕がいなくなったところで誰も悲しまないと思っていた。
けれど今の僕には暖さんがいて、僕に何かあったら悲しいと思ってくれる。
だからこそ今は強く生きなきゃならない。
僕のためにも、暖さんのためにも。
「…あ、あと数十分で夕飯だね。食べに行く?それとも届けてもらう?伝えてくるよ」
「えっと…二人で食べたいです」
「うん、了解」
どうしてそんなにも嬉しそうに笑うの。
本当に僕のことが好きで想ってくれている。
自惚れだったら恥ずかしいけれどそう感じることが出来る。
今の僕にとって暖さんは精神安定剤的存在でもあるのかもしれない。
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