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78本目、苦手を交換。
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「失礼いたします」
その声の後に襖が開かれる。
暖さんが伝えに行ってくれた約三十分後に食事が届いた。
「お待たせいたしました」
優しそうな女の人がお盆を運んで暖さんの前と僕の前へ置いてくれる。
少し大きめのお盆の上には沢山のお皿に食事が綺麗に盛り付けられている。
豪華な上に量が多くてどれから食べようか迷ってしまう。
「こちらは季節の野菜を____」
丁寧に説明までしてもらえる。
たまに聞きなれない単語が出てくる。その度僕の頭の上には、はてなが浮かんでいるだろう。
説明を聞きつつ目の前の料理を眺めていると、どんどんお腹が空いてくる。
待ちきれぬ思いを落ち着けようと視線を上げると暖さんと目が合った。
暖さんは笑いを堪えているようだった。
「お召し上がりください」
説明をしてくれていた女性も笑いを堪えるようにそう言うと「ごゆっくり」と部屋を出ていく。
「歩生、食べよっか」
「なんで笑ってるんですか」
「だって歩生が料理を見つめながらお腹鳴らしてるから」
お腹を鳴らしていた…?
もしかしてぐぅーという音でも出てたのだろうか?説明を聞くのと目の前の料理に夢中になっていたせいで全く気が付かなかった。
だから二人は笑いを堪えていたのだろう。
「そんな…は、恥ずかしい……」
「いい瞬間を見れた」
暖さんは楽しそうにそう言うけれど、僕としては複雑な気持ちだ。
さっき和菓子を食べたのに。
空腹時に少し食べ物を食べると余計にお腹が空いているように思える。
「もう我慢できなさそうな人がいるみたいだし食べよう。いただきます」
「む…。そうですね。いただきます」
二人で手を合わせて食事を始める。
色々あって迷ってしまうけれど、まずはお椀の蓋を開けた。その瞬間すぐにいい匂いがしてきた。それは炊き込みご飯で、中にはタコがたくさん入っている。
「…美味しい!とても美味しいです!」
「このご飯美味しいね」
暖さんも同じく炊き込みご飯から食べている。
僕は一旦お椀を置いて、次は海老の天ぷらを口へと運ぶ。
今まで見た中で一番大きくて食べごたえがある。こんなに口いっぱいに海老を感じられたのは初めてだ。
「あはは、歩生幸せそうな顔してる」
そう言われ僕は頷いた。
今とても幸せだ。こんなに美味しい食事を暖さんと一緒に味わえているなんて。
「そんなにお腹空いてたんだね。運動後だからかな」
「運動って……あの……」
「川で遊んだりしたでしょ?」
暖さんは言うだけ言ってしれっととご飯を食べ続けている。
僕はさっきまでのことを思い出してしまった。完全なるミスリードだ。
食べ物が喉に詰まりそうになる。
「……それよけてるけど残すの?」
「いえ…あ、後で食べようかなって…にんじんは苦手なので…」
可愛くお花の形にされているにんじんは、見た目はいいけれど味が苦手だ。
にんじん独特の甘みがあまり美味しいとは思えない。
「じゃあ食べてあげるから、このグリンピース食べてくれないかな」
暖さんはグリンピースが苦手なんだ。
にんじんとグリンピースを交換して食べる。
確かに苦手って言う人は多いかもしれない。
また暖さんのことをひとつ知れた。
そして僕のこともひとつ知って貰えた。
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