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80本目、夜の街。
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しばらくテレビを観ていると、隣で笑っていた暖さんは寝息をたてている。
今日は沢山体を動かしたから寝てしまうのはわかる。それも食後だから尚更。
「…少し外で涼んできますね」
聞こえていないだろうけど、小声で暖さんにそう伝えた。
そして僕は部屋から出て静かに戸を閉めて旅館の外を目指し歩き始めた。
たまにすれ違う人は、食後でお腹を撫でながら歩く人や温泉から出たばかりでホカホカと湯気を立てている人がいる。
食事前よりも外は暗くなってきていて、旅館周りはほんのり優しい灯りで照らされていた。
少し暖かい外は風が涼しくて丁度いい。
僕はこの風情ある街の夜が気になっていた。
都会のような眩しい光はなく、落ち着いているこの雰囲気がとても心地よい。
旅館の前のベンチに腰をかけ通り過ぎる人々をぼんやりと眺めだす。
「…ふぅ。落ち着く」
「はぁ、一服一服……あれ、歩生さん?」
突然旅館からそう言って賑やかに出てきたのは大和さんだった。
煙草を口にくわえながら僕の隣に座る。
「大和さんこんばんは」
「こんなとこでどうしたの?喧嘩でもした?」
「いえ。少し涼もうかなと」
確かに二人で来ているのに一人で外にいたらそう思われてしまうのは仕方ないだろう。
「まだこの時期は涼しい日もあるもんね。ここらへんの建物は風の通り道を塞いでないから余計に涼しいんだと思うよ」
大和さんは慣れた手つきで煙草に火をつけた。
「煙平気?」
「大丈夫ですよ」
「じゃあこのまま吸い終えるまで付き合ってよ」
「もちろんです」
暖さんの話をなにか聞けるかもしれない。
大和さんは暖さんのことを色々知っている気がする。
暖さんも大和さんのことをとても信用しているようだから。
「歩生さんはこの旅館どう?」
「とても好きです。旅館自体に来たことがなかったので初めてがここで良かったです」
「あら、そうだったんだ?そう言って貰えたならよかった」
「温泉も気持ちいいですしご飯も美味しいですし、大和さんにも出会えたので」
「そんなことまで言ってくれちゃうの?歩生さんは本当に優しいよね」
そう言われたけれど、僕自身はそう思えないから少し複雑な気持ちになった。
でも大和さんにそう思って貰えたのは嬉しい。
「僕からすると大和さんが優しいです」
「あはは。まぁお客様に優しくないと思われたらこの商売やっていけないからね」
「そ、そうですよね」
「…でも、それは関係なくても歩生さんには優しくしているつもりだよ。だからそれが伝わってたのならよかった」
大和さんはふぅっと煙を吐きながらそう言った。
優しくして貰えている、それが素直に嬉しい。
ほんの些細でも、人の優しさが僕にとっては大きくていつまでも心に残る。
僕は自分が思うよりも人のことが好きなのかもしれない。
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