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81本目、彼の過去。
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「あの…暖さんはどんな人ですか?」
「突然すごい質問かますね」
少しの沈黙を破るように僕はそう聞いた。
確かに突然過ぎた上に大和さんからしたら意味のわからない質問に思えるかもしれない。
けれど、僕の知らない暖さんが…大和さんが知ってる暖さんが気になるあまりに聞いてしまった。
「暖くんはねー…小学校の真ん中くらいまでは普通に周りと馴染んでていい子だったよ。あれは小五かな?初めて“偏見”ってやつを味わったんだよね」
「偏見……ですか?」
「誰かがアルファ性だということに気がついて言いふらしたらしい。その頃の子たちは仲間はずれーとかやたらするでしょ?それの的になったんだよ。本人は訳がわからないままね」
暖さんは“歩生は違う”と言ってくれた。
そういうことだったのだろう。
アルファ性であることに悩む人を初めて見て驚いていたけれどそういう話を聞くと腑に落ちる。なにもオメガ性だけが偏見の的にされる訳では無い。
「その頃から口数が急に減ったんだよ。反抗期にしては少し早いでしょ、だから親とかが異変に気づいて本人に聞いたらしいけど暖くんは黙ったままだった」
「……そうだったんですか」
「中学に上がると周りの人は一新してアルファ性ということは隠してたらしいけど……なぜかバレるんだよね」
アルファ性も生き辛いだなんて、そんな世界あってたまるか。
暖さんに出会う前の僕ならそう言っただろう。
暖さんの話、大和さんの話を聞いていたら僕はすごく自分の思考が恥ずかしく思えてきた。
僕はオメガ性という性を持っているからか被害妄想を膨らませすぎていたのかもしれない。
アルファ性だって一人の人間なのだから悩みは必ずあるのだ。
「中三は荒れてた…かな。受験のストレスや周りの偏見、教師や大人からのあからさまな特別扱い…。暖くんは優しさ故に耐えられなかったんだろう。アルファ性の中にはそれをいいことに犯罪を起こす人さえもいる。でも全員が全員そうなわけじゃないんだ」
「……それは暖さんと関わるようになってからわかりました。僕はオメガ性だからという理由で…でもそれは言い訳に過ぎなくて自分が可愛いだけだったんだ、そう気付かされました」
「…その歩生さんの考え方間違えてないと思うけどね」
大和さんのその一言に僕は驚いた。
なぜ?だって僕はアルファ性に偏見抱いていたし近寄る暖さんさえも避けようとしていた。
「アルファ性全員がいい人じゃない。もちろんベータ性もだけどね。これは予想だし失礼だと思うけど、歩生さん過去にアルファ性にそういう印象を抱く経験があったんだよね?それはキミのせいじゃないよ。それはそういう印象を抱かせるような事をしたそのアルファ性のせいだ、と思うんだ」
煙草の煙を空に向かって吐き出しながらそう話してくれた。
大和さんと話してると僕が子どもすぎることを痛感した。
極端にしか考えられない。それが悲しくなる。
「よし、煙草おーしまい。付き合ってくれてありがとうね。キミにもお迎えが来たみたいだし僕は仕事に戻るよ。じゃあごゆっくり、ね」
大和さんはひらひらと手を振るとカラカラと愉快な下駄の音を静かな街中に響かせながら旅館へ入っていった。
「歩生外にいたんだ。それに大和さんと話してたのか」
大和さんが言う通り本当にお迎えが来ていた。
眠そうな目をした暖さんが僕の隣に座る。
「探させてしまいましたか?」
「んー…いや、なんとなくだけどここに居るかもって思って来たから」
「…なんだか僕の思考が読まれてるようで恥ずかしいですね」
「うん、読んでる」
暖さんがそう言うと冗談に聞こえない。
本当に僕の思考を理解してここに来てくれたかのよう。
暖さんのことだから実は何ヶ所か探してからここに来たけど気遣って言わない…ということも考えられる。
なんて、僕も暖さんの思考が少し読めているだろうか。
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