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89本目、捗る。
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「…静かだ。ただいま」
自宅に着きドアを開ける。当たり前だけど中に人はいなくてとても静かで悲しいくらいに音がない。
靴を脱いで部屋に入り、スマホを開くと長野さんからメッセージが届いていた。
返信してから僕はベッドに横になる。
頭には暖さんの顔や声が浮かんでくる。
たくさん見た笑顔や少し意地悪なところ、ぬくもりや感覚。すべてがさっきまでのことなのに懐かしく感じる。
(…暖さんはまだ寝てるかな)
オメガ性として生きてきた人生が目まぐるしく変化した。暖さんに翻弄される日々はそんな嫌じゃない。それどころか好きなのかもしれない。
「…片付けと掃除でもしようかな」
色々と考えすぎたらまたネガティブな方向へ行ってしまうと思った僕は気が紛れる様に行動を始めた。
さっきまで持っていたカバンの中身を出して片付けを始める。
その間も結局は暖さんのことを考えていた。
(…頭の中が暖さんでいっぱいだ)
嬉しいような恥ずかしいような感情のまま掃除機を手に取る。
この後はどこを掃除しようかとか大学に昼から行かなきゃなとか思うけれど…。
(どうしても頭の中から暖さんが抜けない!)
多分僕は今、暖さんに会いたいのだろう。
さっき置き手紙をして帰ってきたのは僕の方なのに、会いたくてたまらない。だからこんなにも考えてしまうのかもしれない。
「…風呂掃除もしよう」
色々と考えれば考えるほど不思議と掃除のやる気が上がる。
(暖さんはなんの掃除が好きでなんの掃除が嫌いなんだろう)
掃除機をかけ終える頃には開き直ったかのように暖さんのことしか考えていなかった。
でもいつもみたいにネガティブなことを考えないで済むし、なんなら幸せだ。
楽しかったことを思い出したり愛しい気持ちで心が満たされたり。
人を好きになるってこういうことだったんだ。
僕は掃除機を元の場所へ片付けて、浴室へ向かう。
考え事をしているから掃除が捗るのではなく、気分が明るいから掃除が捗るのかもしれない。
今みたいにずっとこういう気持ちで生きて行けたらどんなにいいだろう。
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