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93本目、壁との間。(最新)
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最悪だ。
聞いてない、こんなこと。
僕は大学が終わったあとに誘ってくれた人たちと合流してそのまま居酒屋へと向かった。
その時はまだ少し浮かれていたかもしれない。
大勢いるなら一人くらい仲良くなれるかもしれないなんて。
「あゆくんだー。本当にいつ見ても可愛いね」
なぜ篠宮さんが来ているんだ?
居酒屋に着いてからは一気に緊張感が走り気持ちが落ち着かない。
「あゆくんこういうの来るんだ?今までの飲み会であゆくんに会ったことないよね」
「……ねぇなんで篠宮さん来てるの?」
話しかけてくる篠宮さんを無視して誘ってくれた人に小声で問いかけた。
「この人いろんな飲み会に顔出してるよ。女好きなのに最近は男しかいない飲み会にも顔出すようになってるからただの酒好きだったのかとか言われてるよ」
「…そう」
それならば偶然なのかもしれないけれど、薬の件があるせいで気が気ではない。
この人は他の人よりもあの薬がなんなのかすぐに理解出来ただろう。
(…今日は早めに帰ろう。キリのよさそうなところで抜け出そう)
頭の中で最悪なことばかりが過ぎってしまう。
帰るまではどうにか誘ってくれた人たちとは離れないでおこう。
「あゆくん今日は何で来たのー?」
篠宮さんは無視しても関係なく無理やり横に座ってきた。
僕は一番端の席にいたから横は壁で狭苦しい。
僕の隣にいた人は気を遣ってどいてしまうし、もう飲み会というものには行かないようにしようと思った。
「あゆくん何飲む?俺はー……てかあゆくんまだ未成年じゃんね?もうすぐ飲めるようになるかぁ。じゃあここら辺のを飲めばどうかな?」
返事をしなくても勝手に話しかけてくる。
目を合わせなくても僕のことをじっと見てきている。それがなんだか怖かった。
早めにとは言わず今すぐに帰りたい。
目の前に座った人は友だちの友だちって感じでそんな話さない人だし逃げ道が見つからない。
「ねぇ……これ飲める?炭酸好き?俺結構好きなんだよねー」
(…あまり返事をしたらいけない気がする)
「そこ二人は何頼むか決まったの?」
「あ…俺はさっき伝えたやつで。あゆくんは…俺と同じやつで」
「えっ…!」
注文を聞いてくれた人に篠宮さんはそう答えた。その時つい反応してしまった。
それに気づいた篠宮さんは振り返り再び僕の顔を…目をじっと見始めた。
「あ、やっと声出した?まだお酒はダメなのになっ思ったの?」
ニヤニヤしながらそう言う篠宮さんにイライラしてしまう。バカにしてきている。どうして?
僕が年下だからなのか、あからさまに避けているからなのか。はたまたオメガ性だからなのだろうか。
「…ねぇ、あゆくん」
とにかくもう関わらないでほしい。
僕のことは放っといてほしい。
「あゆくんたら、聞いてるでしょ?」
いくら無視を続けてもずっと話しかけてくるし僕を見てくる。目を合わせるのが怖い。
この人が一体何を考えているのかがわからない。
僕たち以外はワイワイと盛り上がっている。
篠宮さんの声はそれに比べれば小さくて、きっと僕にしか聞こえていない。
「あゆくん」
ドンッ
「…あの…さぁ?」
「っ…!?」
鈍い音に肩が跳ねる。
篠宮さんは両手を壁につけて顔を近づけてくる。壁ドン…というやつだろうけど、どうやら篠宮さんはピリピリしているようだ。
「俺、キミに何かしたっけ?なんでそんなに無視すんのー?あゆくんと仲良くしたいってだけだよ、俺は」
怖い。さっきよりも小さな声で少し笑ったようにそう言ってくるけれど目は笑っていない。
「あゆくん…無視されるといつまでもしつこくしちゃうかも…よ?」
「……わかりました」
僕は完全に頭が真っ白になった。
勝手に話かけてきて勝手に怒り出して…。
この人は本当に関わっちゃいけない人なのかもしれない。
やっぱり何とかして早く帰らなきゃならない。
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