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夕飯にて
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「あれ、七海さん」
「……あ、高岡くん~、偶然だねえ~」
その日は旭と昼間から遊んでいて、夕方頃に旭のスマホに連絡が来て。画面見るなり顔を真っ青にして「良子に呼び出しくらった」なんて言うから。まあ、多分隠してあったテストでも見つかったんだろうか。良子さん(旭のお母さん)には逆らえないらしく、ごめんなと言って解散をした。
そうして駅前を歩いていると、七海さんと出会った。
仕事帰り、か?こんなところで会うなんてな。
俺が話しかけようとすれば、いつものヘラリとした笑いを浮かべながら、じゃあ、なんて立ち去ろうとするから、
「どこいくんすか七海さん、二人で飯でも行きません?」
「ん~、夕飯~?
僕この辺あんまり知らないんだよねえ~」
「じゃあ俺のよく行くとこで。ウマいしオススメだから紹介しますよ」
せっかく会ったんだし。ね?
飯行きましょう、って誘ったら少し困った顔をされたけどその後すぐにまたヘラッと笑っていいよ、なんて言うからまた強引に連れてきてしまった。
来たのはいつも旭たちと来る店で若い人達や学生が多い店だ。
今時の外観だから女子も入りやすい…って行っても殆どは男子。結構な量に安い値段だからそれが人気なんだろう。
俺らもいつも3人で来て、ジャンケンで負けたやつが1枚分ピザ奢るって言うバカみたいな事してるんだけど…。とりあえず、味も量も値段もよし。
「ここのメニューはずれないから、
気軽に好きなの頼んでください」
はい、と七海さんにメニューを渡す。
どうしよっかな、とチラチラとメニューを見ているが何故か難しそうな顔をしている。少し迷って和風パスタにする、と言った七海さん。あっさりしたのが好みなのかなー、なんて。
俺はいつもの通り日替わりの定食を選んだ。
店員を呼び七海さんのパスタと自分の定食を頼む。あ、定食のご飯は無料で大盛りだから勿論。学生ってこの量を余裕で食べてしまうから怖い。俺も旭も結構食うけど、北村は特に。正に育ち盛りってやつ。
「お待たせしました」
料理出てくるのも早いからいいよな。
パスタと定食を運んでくる店員。
めっちゃ美味そう。
「ここ、この値段でがっつりだから学生には助かるっていうか……七海さん?」
「ん〜?何、どうしたの〜?」
「あ、いや…嫌いでした?こういうとこ」
「いやいや、美味しそうだな〜って思って〜」
運ばれてきた料理を見るなり、動きが固まって、その後チラチラと店内を見渡す七海さん。思ってたのと違った、みたいな?あんまこういう系好きじゃねぇのかなぁ。
何でもない、とフォークを取ってパスタを食べ始める。
俺も然程気にせず定食に手をつけ始めた。
「ほんとだ、ここ美味しいね〜」
「よかったです、気に入ってもらえて」
気になってたけど杞憂にすぎず、七海さんも美味しそうに食べ始めてくれた。
俺は腹が減っていた事もあって、定食をあっという間に完食した。
「あー、やっぱ美味いわー」
ふぅ、とお茶を飲んで一息ついてれば、
「七海さん……もしかして腹減ってませんでした?」
向かいに座る七海さんの皿にはまだ半分以上のパスタが残っていた。
「え、いやいや〜、ちょうどお腹すいてたよ〜。ただちょっと食べるの遅くって〜、ゆっくり味わいたいっていうか〜」
「……や、さっきから全然箸進んでないっすよ」
俺が食べるの早いにしても明らかに残っているパスタ。ゆっくり味わいたいと言う七海さんはお腹をゆるゆるさすっている。
俺の方をチラッと見て、急かされてるのかと思ったのか、
「や、え〜っと…ごめんね?すぐ食べ終わるから〜」
またゆるりと笑ってフォークを動かすが口が中々開かない。
食べれないなら食べれないって言ってくれればいい、…そんな事七海さんに言える訳もなくて。
それに、きっと七海さんは折角誘ってもらったから、なんてそんな事思ってる。
俺が食べたい所に勝手に連れてきて、七海さんに無理させて。マジで申し訳なさしかない。細いとは思ってたけど、やっぱり学生の俺らとは違ってこの量は大変だったよな……。
「無理しなくていいっすよ。ていうか、もし食えないならもらっていいっすか?」
「え……いや、でも…」
「実はパスタにしようかなー、って定食と迷ってたんすよ。残しちゃうの勿体無いし、よかったらください」
「あ……うん、いいけど……」
いまだ頑張って食べようとする七海さんの手を止めて、もらっていいか問う。俺が食べなくていい、って言っても多分無理にでも全部食べようとすると思う。
そんなんで無理に食べさせるつもりもないし、それに少しでも頑張って食べようとしてくれた心遣いが嬉しかった。
残せと言うより俺が食べたいと言えば七海さんは変に気を遣う必要もないだろう。
「やー、育ち盛りなんで」
「そっか、高校生だもんね〜」
俺がパスタを完食すれば驚いた顔で七海さんが見てくるもんだから、俺はヘラッと笑って。そうすれば七海さんもさっきまでの難しい顔が嘘みたいに優しく笑った。
変に気を使ったり困ったりしてる時のヘラリとした笑い方よりも、今の自然な優しい緩い笑い方の方が何倍も可愛い。んで、その笑顔が見れた事が俺はめちゃくちゃ嬉しい。
完食をした所でそろそろ帰ろうと伝票を持って席を立ちレジへ向かう。
ほぼこの店の常連みたいなもんだし、店員も俺の顔を見知っていて「あれ?今日は赤髪の子と金髪の子はいないんだ」なんて他愛ない話してる間にポンポンと会計すませて。これあげるよー、と記念品をもらった。
それを七海さんに渡せば、凄い焦りながら、
「僕も自分のぶん払うって…!!」
「や、七海さん半分も食ってないじゃん…あれで金払わせたら悪いですよ」
え、なに、この人自分の分出そうとしてたの?
俺は元々七海さんの分も払うつもりで来てたし。誘ったのは俺なんだし、自分の都合で連れてきて飯代出させるなんてそんな事できねぇって。なのに、
「そんなの関係ないっていうか高校生が無理しないの……!!」
「無理っていうか…もー、ちょっとはカッコつけさせてくださいよ〜。……あ、それなら欲しいもんあるんですけど」
「な、何?」
いい事思いついた。
訝しげに俺を見る七海さんに、
「今日は偶然会えたけど次からはちゃんと誘いたいんで、番号とかください。食事代はいきなり誘ったお詫びって事で」
「けどそんなのっ…」
「いーからー、ね?」
食い下がる七海さんに、代わりに番号をくれ、と言えば渋々といった感じで折れてくれた。こうでもしないとまた七海さんは気を遣うから。それに今度の約束は七海さんの好きな所に行けたらいい。今日みたいな気を遣わせる事があってもやだし。
七海さんを送った後にも、旭の、鬼の良子が何とか…っていうどうでもいいトークを既読無視してる事も忘れて、「今日はありがとう」っていう七海さんとのトーク画面を何回も開いて、どう返そうかなんて考えてる自分がいた。
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