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【コト】
コースターの上におかれるトールグラス。注文しなくても、わたしが座ればこれが出てくる。
「ジントニック」-スタンダードすぎるほどのカクテル。
わたしはこれが好きだ。松脂に似た香りと甘さが鼻腔をくすぐり、ソーダで緩和されたアルコールが喉に沁みこんでいく。
タンカレーのボトルが忌々しい記憶を引き出すものになっていた時期、この男はジントニックを出してくれた。でも、もう大丈夫。次はロックを頼もう、たぶん片方の眉をあげるはずだ。
「あなたの作るお酒はいつも美味しいですね。」
「褒め言葉は嬉しいですから、受け取っておきますよ。」
斉宮はここにいるとバーテンダーにしか見えない。黒いベストにギャルソンエプロン、白いシャツ。
話しすぎることはない、でも寂しい思いもさせない。その距離感が与える安心感によって、知らずに客の口数が多くなる。
グラスを拭きながら「そうでしたか・・・」そんな相槌を打ち、どんどん吸収していく。
どこかで使える物が転がっていないか
噂話の中に隠れた真実
アルコールは人の口を軽くする・・・。
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