アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-20-
-
「天ぷらにしましょう。テーブルの上にカセットコンロおいて、揚げたてを食べる。最後は蕎麦!
天ぷらなにがいいですか?海老は外せないですね、かき揚げもいいな。」
夕方になって多少元気になった宏之をタクシーに押し込み、彼の家に向かった。
途中のスーパーで降りて夕食の買い物をしている。
今日は一日ぼうっとしていたくせに、料理の事になるととたんに元気になるから不思議だ。
「あれ、関君?ああ、今日はおやすみだったかあ~。」
スーパーを出たところで呼び止められた。
肌触りのよさそうなコットンのシャツにジーンズというシンプルな姿の男だった。
帆布のトートを無造作に肩にかけ、微笑んでいる。
誰?
「秋元さん、お仕事ですか?」
「今日は先生のところに資料をお届けして少し打ち合わせでね。終わったら寄ろうかと思っていたけど、よく考えたらお休みだよね。」
先生・・・。
「いやあ、想像していた以上の美人さんだ。」
「秋元さん!」
さてと・・・わたしの話しがどこで持ち上がっている?
この男は宏之とどういう関わりだ?
「碧さん、秋元さんはお客さんで、たまに寄ってくれるんです。」
「いきなり不躾に失礼しました。わたしは秋元と申します。小さな出版社に勤めておりまして、担当している先生の住まいがこの近くなので、ちょくちょく来るんですよ。それで給料日あとは関君の所で食べる寿司が楽しみでね。
『兄ちゃんの相手は和服の似合うとびきりの別嬪さんだ。あきらめな!兄ちゃんは売約済だ!』って、古谷さんが関君狙いの女性に片っ端から言うものだから、「謎の和服美人」はあの店で結構な有名人ですよ。」
「古谷さんが・・・。」
困ったものだ、古谷さん相手に文句なんて言えないじゃないか。
「関君、今度先生と一緒にお邪魔するね。歩いていけるし、美味しいしね。
実は「和服美人」には興味深々だったんだよ。男の人で少し驚いたけど、関君の顔をみれば一目瞭然だ。」
「秋元・・・さん?」
「背筋がピンとしてストイック、控えめな笑顔が関君だと思っていたら、そんなトロトロの笑顔をしてるから。
思わず声をかけちゃった。じゃあ、また今度寄らせていただくね。」
立ち去る背中を見詰める。
わかっている、宏之とすべてを共有することは無理だ。
でもこうやって、わたしの知らない宏之が見えると、どうしていいのかわからなくなってしまう。
わたしだけが知っている沢山の事
わたしだけが知らない沢山の事
ちゃんと考えなくてはいけない・・・二人の有り方を。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 104