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《21》
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休みの日に申し訳なかったが、秋元さんに来てもらった。
平日では時間がとれないし、今のシュンは書くことに埋もれていて相談できる状態じゃない。
外にいく心配もないのが有難い、それだけが救いだ。
「お休みなのに申し訳ないですね。」
「いえいえ、届けたい資料もあったので丁度よかったです。お話がおわったら寿司でもどうですかとお誘いするつもりでしたが、うっかりしてました。今日はお休みでした、残念です。」
「近所に?」
「そうなんですよ。そこの大将が気持ちのいい人で旨い寿司です。弟子に入った人がこれまたきちんとした人で、やっぱりああいう人の下には相応の人が来るものだと。
ああ、すいません。すっかり脱線してしまって。
平山田先生のところに来たという男の事でしたね。」
「そうなんです。パーティーとか、そういう所でシュンの姿を見たことがないかって聞かれたみたいですよ。
秘密のベールに包まれたプライベートを明らかにするとか何とか。」
「う~~ん」
秋山さんは腕を組みながら何かを考えている。
モリから折り返しの電話がないということは、接触がなかったのだろう。
サイにはライターの可能性を言っておいた。防犯カメラの画像よりはマシな情報だ。
「お二人の関係が世間に露見した場合、先生の仕事に影響があると思いますか?」
「そりゃあ、あるでしょう。」
「でも『想い』の内容から、先生と木崎さんの関係が公になっても・・・と思う面もあります。」
「それは最初からオープンにしていた場合、受け入れられるかもしれません。でもデビュー以来ずっとプライベートに言及されないように露出を極端に控えています。
そうなると、「隠したがっている」そう思われますよね。
正々堂々と同性の恋人がいますと開き直っているわけではないので・・・。
隠す=隠したい=やましい そういう図式に見られかねない。
あの透明さをたたえた『想い』という作品が曇りだしますよ、絶対です。」
「う~~ん」
秋元さんの言わんとすることはわかる。同性の恋人がいると知られて、極端に部数が減るとは考えにくい。言うべきか・・・このまま黙っているか・・・。
こういうことが今後もあるかもしれない、そのたびに同じように悩むのは得策ではない気がする。
決めた、言ってしまおう。
「秋元さん、今から話す事は他言しないでください。松木編集長にも、誰にも。家族にも友達にも。
そしてシュンにも。」
秋元さんはソファの上で居ずまいを正し、膝に手を置き見つめ返してきた。
大丈夫、この人は信じていい。
「『想い』を書いていた約1年の間、秋元さんはシュンに逢いましたか?」
「そういえば・・・逢っても飯田のクリニックでしたね。あとはメールのやりとりです。書くことに集中したいからとおっしゃって。先生の集中力はあのとおりです。だから邪魔をしないようにしていました。」
小さく息を吐き出して、気持ちを静める。油断すると冷静さを失ってしまうからだ、吉川のことを思い出すのは苦痛でしかない。
「その時・・・シュンはヤクザに監禁まがいの生活を強いられていました。」
「な、なんですって!じゃあ、飯田はそれを知っていて何も言わなかったと?ひどい!」
「先生は相手がヤクザとは知らなかったし、守秘義務もあります。
ヤクザだとつきとめてケリをつけたのは俺です。」
「木崎さん、あなた何をやって・・・。」
目をつぶって、再び心を鎮める。フラッシュバックのように浮かんでは消える画像。
何枚にも重なった写真・・・肌に散った鬱血・・・手首のすり傷・・・くそっ!
「シュンは縛られて・・・そのヤクザの男にレイプされた・・・何人もの男たちの前で。」
秋元さんの目は大きく見開かれ、口を両手で覆い体が小刻みに震えだした。
力が抜けた身体がソファに沈みこむ。
「だから・・・。もしシュンの顔が公表されたら、対処に困る問題が持ち上がります。同性の恋人がいるどころの騒ぎじゃない。それを穿り返されると大変なことになる。
そのヤクザの処分は俺の手ではできなかったから、その場所にいた男達の身元は調べられなかった。
残念です・・・。」
秋元さんは何も言わなかった。頭を抱えたまま動かない。
俺はコーヒーポットを取るために立ち上がった。
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