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《22》
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「コーヒーです。少し落ち着きますよ。」
秋元さんはノロノロと顔をあげた。
目はうるみ肌は青ざめて、一気に歳をとった男のように見える。
無理もない、そんな出来事が身近な人間におこると想像できるか?できるはずもない。
「お二人は・・・そんなことを乗り越えて一緒に・・・。あぁ何ということだ。警察に相談は?」
「したところで無理です。なにせ実態がない。
ヤクザの囲われ者の住まいにしてはおかしい何もない部屋の写真。
生活費すら振り込まれていない通帳。飯田先生の撮った、凌辱後の写真。
それがどうした?って言われるだけでしょうね。」
「そんな、証拠があるじゃないですか!」
「あくまでも状況証拠の前段階にしかならないものですよ。悔しいですけどね。
閉じ込められていた部屋、荷物を預けていた貸倉庫。それらの賃貸契約はシュン本人名義になっています。もともと住んでいた賃貸物件の解約、それも本人の申し出ということになっていますよ、書類上はね。
本人が関与していないといくら言っても「紙」が示すのは「関与」です。
それにシュンを監禁していたという男の苗字と所属していた組の名前はわかっていますが、本人がこの世に存在しているのか、それすらわからない。当事者不在・・・。
1年に渡って同居していた同性同士のレイプの立証、そこにいた男たちの人数も名前もわからない。
グレーゾーンを巧みに操って世を渡っているヤクザ相手に正攻法で攻めても・・・ということです。
だから・・・シュンを世間に晒す気はない。わかっていただけますか。」
「そして、このルポライター騒ぎ・・・・。クソっ!」
秋元さんが悪態をつくなんてびっくりだ。
「出版社が持っている先生の資料関係を再度洗いなおします。画像や先生の出生をはじめプライベートにかかわる情報があれば、移します。データはこちらに持ってきますので、ここで保管をしてください。我々が必要としているのは先生の「原稿」です、それ以外無くたって何の問題もありませんから。」
「・・・ありがとうございます。」
「でも、ここに住んでいる事をどうやって調べたのでしょうか。うちから先生に出している郵便物や荷物はすべて木崎さん宛てになっていますから、社内から漏れたとは考えにくいですよ。」
「それは俺も考えました。それで・・・可能性としてこの家に出入りしている人間となると、秋元さんしかいないわけです。」
「え・・・。」
「シュンの本をだしている出版社は秋元さんのところだけです。その編集者が秋元さんだということは誰にでも調べられる。あくまでも可能性として聞いてください。
ここに来る秋元さんを尾行すれば、シュンの住まいだと当たりはつけられる。」
「まさか・・・。」
「あとはゴミを漁れば名前には行き付く。請求書やDMには俺宛てのものもシュン宛のものもありますからね。ビリビリに破いたとしても探るのは簡単でしょう。
そう考えると、自分の甘さにガッカリしちゃって、すぐシュレッターを買いました。」
「もしそうだとしたら、自分のせいですね。」
「いえ、そうじゃないですよ。この世の中に生きていて、完全に隠れて暮らすことなんかできないわけです。
今回のことが片付いたとしても、また次に何か起こるかもしれない。
ちゃんとシュンと話し合って、「征寛 俊」の有り方を考えるべきなんでしょうね。」
「そうですね。先生の露出の仕方とか、取材を受ける方向性を少し松木と話合ってみます。
一人でヤクザに立ち向かった・・・それは向こう見ずです。今回はやめてくださいね。」
「そうですよね。相手は3人いましたから。」
秋元さんの唖然とした顔が可笑しくて、ようやく気持ちが凪いだ。
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