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荷物をまとめていたら電話が鳴った。
『今大丈夫か?』
「うん。」
『家か?』
「そうだよ。」
『じゃあ、そっちにいく。』
あいかわらず、用件のみ。
裕は店に来るだけではなく、閉店までいた日は送ってくれるようになった。
「牽制にもリアリティが必要だろう?」そう言って。
裕の言う牽制は、わたしの為というより宏之の為だと思う。何を言われたのか、何を言ったのか
宏之を気に入っているから。
こちらに来るならついでに送ってもらえばいい。
まとめた荷物を持ってマンションを出ると、ちょうど車が止まるところだった。
「なんだ、その荷物は。家出か?」
「そうだよ、宏之の所にね。」
「そりゃあ楽しい家出だな。」
日曜は道がすいている、そんな事を思いながら窓の外をながめていると、横で紙のガサガサいう音がした。
「え、もう調べたの?」
「名前は割れてんだ、3日もかかって遅いくらいだろ。」
名前だけ明らかになった男は本を出しているわけではないし、記名の記事はネットでもひっかからなかった。
スーパーで逢った秋元という男が浮かんだが、そっちはゆきちゃんが手を回しているだろう。
教科書を出版している会社に勤務している客がいるので、週明けに聞こうと思っていたが望みは薄そうだ。人のプライベートをのぞき見するライターは教科書と接点がないだろうし。
さすがヤクザ、餅は餅屋。
「取材対象は世間に認知度のある男、しかも「ゲイだから」という理由で選んでいる。
噂を聞きつけて、身辺を調べて証拠らしきものを見つけると記事にする。何をされても文句はいえないでしょう?ゲイなんだから!と言わんばかりの胸糞わるい文章だ。」
「最低だな。」
「最低なのはここからだ。まとめた記事は100%掲載されない。」
「え?意味ないでしょう。」
「編集長が記事を持参して、取材対象に逢う。見えただろう?」
「口止め料・・・ゆすり。」
「そういうことだ。」
「わたし以上に下衆だな。」
裕は思い切り嫌な顔をした。
「あれは、言葉が過ぎた。悪かったよ。」
「いいよ、当てこすりだから。それにしてもよくわかったね。」
「そりゃあな、ヤクザを信用するな、だよ。人の弱みを握るプロだからな。
同じ穴のムジナさんには鼻が利くってわけだ。」
「一度払ったら、延々に・・・。」
「そうだ。ケリをつけてやるからと渋る相手に約束して吐かせたネタだ。
これっきりにしてもらわないとな。ヘタな脅しは逆効果だし、ま、それはこれから考える。」
「ゆきちゃんには?」
「俺は関与してないことになっているはずだが?」
「『sin』に行った時点で斉宮にバレているよ。ゆきちゃんにはわたしが話すことにする。」
「まあ、バレてるわな。関によろしく言っておいてくれ。」
「宏之に直接言えばいいのに。たまには長電話とか人並みなことしてみれば?」
「本当は、アイツの握ったすしを食いたいが、俺が行ったら迷惑がかかるだろうしな。」
大将や古さんは裕を嫌なものとして見るだろうか・・・。
今度聞いてみよう。街のお寿司屋さんにヤクザ。店のことを考えたら貸切りが賢明かもしれない。
「着いたぞ。」
「ありがとう。助かった。」
「じゃあな、お仕置きプランが決まったら連絡する。そうだ、ちゃんと渡したか?」
「なに?」
「あああ?キーホルダーだよ。ちゃんと鍵つけて持ち歩くように言っとけ、お前もな。」
あれをどんな顔をして買ったのか。
裕にあれを買わせる宏之はすごい・・・素直に思った。
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