アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
-54-
-
「お前、おれよりヤクザにむいてるぞ。さっきのは本当にエゲツない。
沢木が見たら悲しむぜ?わたしの宏之がちっともかわいくない、ってな。」
「あれは昔の俺です。それにヤクザは無理、向いていませんって。
あんな風に言えるのは修行時代に鍛えられたし、理不尽なことにも随分耐えたからです。
怒鳴り散らすより、理詰めで話すほうが相手に伝わるし、感情を乱します。
俺がある先輩を飛び越えてツケ場に入ることになったとき、焼きすぎで花板に突き返された炙りものを後ろに持って行った。その先輩は「捨てろ」と言ったから捨てた。
その次には食べ物捨てるとは料理人の恥だ!拾って食え!って、どう思います?」
「クソみたいな話だな。」
「ムカムカしながら聞き返しました。先輩は食べられますか?と。てめえはゴミを俺に食わすのか!って、もう何?って感じですよね。だから言ってやりました。自分でも食べられないと思うものを人に食べさせて平気なほうこそ、料理を志す人間とは思えません。」
「煙たがられていた、昔のお前が目に浮かぶよ。」
「だからこそ、人一倍努力しましたし、寝る間も惜しんで練習して、休みなく鍛錬していた。
毎日繰り返される先輩の苛めや同期との鍔迫り合い。
その裏返しです、あの頃俺がいつもイライラしていたのは。」
「沢木によって癒されたということか。」
「あと、大将の寿司に出会えたことです。話かわりますけど、提案があります。」
「なんだ?」
「わざとらしく見つかる感じのヘタな尾行を10日ばかり里村につけるのはどうでしょうか。」
「ヘタクソでいいのか?」
「つけられている、見張られているってわかる事に意味があります。
一流の尾行じゃ気が付かないかもしれないので。
つねに見張られているという恐怖を刷り込んでおけば、下手には動けないでしょう?」
「やっぱり、お前、エゲツないな・・・。」
「あ、ちょうど着きましたね、ありがとうございます。」
車を止めると、そのまま降りずに後部座席から乗り出して助手席に紙袋を置いた。
「それ、お前の荷物だろ?」
「これは出かける前に、俺が巻いた「とろたく」です。今日の労をねぎらって。
トロはきれっぱしだから店で食べるものよりは落ちますけど、俺の愛情が入っています。
桜沢さんを想って巻きましたから。
じゃあ、ありがとうございました。」
そのまま車をおりて手を振ると背を向けて歩いていく。もう意識は沢木に向かっているだろう。
なかなか楽しませてくれる弟君じゃないか。
沢木だけじゃない、絶対お前も守ってやる。
絶対だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
55 / 104