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「さて本題です。水原・・・あの腐れボンボンはいったい何を考えているのやらです。事務所にはあなたが乗り込んでください。蒼の姿で出向いてもらうほうが楽しいですが、リスクはできるだけ回避しなくてはいけません。銀行員だった時と立場が違いますしね。
アポは明後日の11:00、急用でこられなくなった議員の代理で書類を届けてもらいます。
これは名刺。」
厚手の白地に明朝体の黒い文字だけの名刺だった。
「それ、本物ですから。」
「貴方が手に入れられない物って、この世にあるんですか?」
片方の眉があがる。
「おかしなことを言う。手に入らない物ばかりです。それに本当に望むものほど遠くに逃げる。」
氷が解けだしたグラスを揺すり一口含む。
きな臭い話をしているというのに、喉はスッキリと洗われるようだ。
斉宮の作る酒の味とチョイスには無駄もなければハズレもない。ジントニックで正解。
「これはあなたが映っている映像です。」
さしだされたDVDが一枚。「大水 蒼」だったころのわたし。
斉宮のもとにはどれくらいのDVDが眠っているのだろう。不思議と何も感じなかった。
もっと忌々しく触るのも嫌だと、そう感じると思っていたのにカウンターの上に乗るものを見ても心は穏やかだった。
そこに映るわたしは、わたしではない。それは蒼という男だから関係ない。
本当にそう思えるようになっていることが単純に嬉しかった。
わたしは「今」を生きている、それを実感できて安堵が胸に沁みこんでくる。
「うらやましい。」
予想外の言葉を斉宮が言ったので、驚いてマジマジと見詰めてしまった。
「人との出逢い、それを掴み取った人。与える者と得られる物。あなたはそれを勝ち取り穏やかに微笑むことができるようになった。
私も誰かとそういう関係を築きたいものです、たぶん無理でしょうが。」
何と返せばいい?きっと現れますよ、そんな気休めはこの男に通用しない。
「無理だと諦めれば痛みもない。そのかわり救いもない。足掻いたり、抵抗したり、逃げ出すことを真剣に悩んだりしながらでも「欲しい」と思う自分の心に忠実であるか、だと思いませんか?
一緒にいることを望み、一瞬先には逃げることを考える。こんなことを繰り返して相手を待たせて続けて・・・でもやっぱり一緒にいたいと望んだんです、心が。」
「もし・・・私にそのような事が起こったら、碧仁に相談します。」
「もし・・・そうなったら・・・話てください。」
斉宮は煙草一本吸い終えるまで、何も言わなかった。
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