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綱渡りの線引き
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一回考えてしまえば、次々と嫌な想像が沸き上がる。止めたくても止められない、一度も聞いたことが無いのだから。陽も何も言わないのだから。
全ては、自分の自己満足に過ぎないのではないか。
「帰ったかしら」
奥から出て来た陽に振り返る。陽は手にタバコを握り締めていた。
「、……雪。大丈夫か?」
「迫られただけ。それより、影宗は?店に手を出されてないわよね?」
心配そうな陽に、客達が追っ払ったと陽気に答える。その答えに安心した様に陽は笑ったが、影宗は一度宿った疑念を払えずにいた。
おかげで、その後の仕事では不調が続いている。
「影宗」
仕事終わりまで何故か居残った陽に呼ばれ、影宗は何となく陽を視界に入れないように近付いた。
陽はその様子に気付いたものの、あえて何も言わない事にした。代わりに、持っていたタバコの箱を握る手に力が入る。
「やぁね、ミス連発。珍しすぎて明日は雨かしら」
「そう、かもな」
「冗談を真に受けないでくれる?返しに困るわ」
落ち込んだ様子から回復を見せない影宗に、陽は何か余計な事を言われたなと見当を付けた。だけれど、店の中では何も言えない。
ここで聞き出したとして、言われた言葉が何であれ店は巻き込まれる。
ここはバー。酒を提供する飲食店。決して、環や陽の様な男娼が居て、夜のネオン街と橋渡ししている場所であると知られてはいけないのだ。
あくまで、男娼達は店と無関係。なのに従業員と男娼が一線を越えた仲だと知られれば、世間はそうだと思ってくれない。
「帰りましょ、今日は早く寝るべきだわ」
「そうだな」
家に着くと、陽は「タバコでも吸ったらどう?」と誘った。
影宗が同意して一服すると、陽が口を開いた。
「影宗、アンタ何か余計な事を言われたわね?」
「客の事か?特には言われてないが……」
影宗は嘘が下手だ。ごまかしではない。
だとすれば、影宗に関して何か言われたわけではない。
「じゃあ、アタシの事ね。あの客、何言ったのかしら」
「いや、そっちは……その、気にしなくていい」
ほらこの通りだ。気にしてくれと言っているようなものである。
陽はそこから何を言われたか少し察した。
「アタシがネコじゃない事に悪口でも言ったのね」
「そ、れは!」
「アンタ嘘つけないのにごまかさなくていいわよ。事実なんだし」
それは本当に悪いとは思う事である。選べる立場じゃない人間もこの業界には多い事だろう。なのに、自分はタチだと言い張って今まで貫き通して来た。
マスターの助力のおかげであり、その事を理解してくれている客達のおかげだ。本当に恵まれている。
「なあ、陽」
「何よ」
「今まで聞かなかったけど、お前本当にネコで居たくないんだろ?」
陽は今更?と苦笑した。今まで何を気にしていたのだろうか、この男は。
影宗の返答は、今までの事は「そういう気分だったんじゃないか」と思っていたとのことだった。
否定はしない。そういう気分になるのは、影宗限定なのだが。
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