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日常―Ⅱ
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とあるバーへと入れば、客達の視線が一斉に雪に注がれた。
「マスター?ただいまー」
雪が声をかけると、カウンターにいた穏やかそうな物腰の男が笑った。
「おかえり、雪。でも、裏から入って欲しいかな」
「あー……。忘れてたわ、ごめんなさい」
客の一人が雪の手を握る。気付いた雪が握った手の持ち主を振り返る。
「あら?」
「なあ、さっきの男とは終わったんだろ……?」
雪は妖しく笑った。客の男に顔を近付けて、獲物を見付けた目で言う。
「なぁに?アタシをご指名?」
その時だった。赤い石のついたシルバーのイヤーカフを付けた男が雪の肩に手を置いた。
派手なアクセサリーの割に、真面目そうな顔。
「セツ、もう今日の商売は終いだ」
「……はあ……。影宗がこう言うから……またね?今度来た時に指名して頂戴」
男の名は、宇都木 影宗。このバーで人気のバーテンダーだった。
このバー、"Karma"で働く従業員は5人程度。このバー限定の男娼が二人と、バーテンダーが三人。
男娼になる事を強要した訳でもされた訳でもない。
雪は自分から男娼になった。
「影宗、アタシにもお酒頂戴」
「高いぞ」
「やだ、聞いた?お金取るって、酷いわあ」
店内がどっと笑い声に包まれる。そんな中、二人の後ろから声が聞こえた。
「雪さん、もう上がるんですかあ?」
「あら環ちゃん、上がりたい?」
環(たまき)。それはもう一人の男娼の名前だった。
このバーでは複数人男娼を抱えている。表向きは「バーに出入りしている客が男娼だった」扱いだ。
「いや、そうじゃないですけど~……。仕事終わったらいなくなっちゃうじゃないですかー」
そうなっちゃったら酷いんですよー、と環は言った。
言い終わるかどうかくらいでブーイングが上がる。
「酷いって何だよ」
「事実じゃないか、早く雪みたいに立派な男娼になってから相手してくれよ」
「ほら子ども扱い。俺もう21なんですけどっ!?」
拗ねたように見せる環の肩に手を回し、年上が幼子を諭すような仕草で雪は妖艶に微笑んだ。
「あらやだ、じゃあアタシも子供ね」
「雪は違うだろ~」
客と軽く会話を交わしながら、雪はそっと影宗に出されたグラスの酒を飲み干した。
そして空になったグラスを影宗に向かって左右に振る。
「影宗、もう一杯」
「聞かない。さっさと上がれ、後から行く」
「……ん」
強く念を押されると、雪は言い返す事をしない。
大人しくグラスをカウンターに置き、ひらひらと手を振ってがっかりする客達と仲間を背に店の奥へと消えた。
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