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講堂からあっさりと出られた俺は、先生達に支えられながら歩く会長の後を見つからないようにつけていた。保健室に直行かと思えば、行き先はなんと会長室で。なんで? と首を捻る前に会長達は部屋に入っていった。暫くして、先生達だけが部屋から出て行くのを確認すると扉の前に立つ。一瞬、憚られたが意を決してドアノブに触れる。鍵でも掛けられていたらどうしようかと思ったが、その心配はなく扉は容易く開いた。
出来るだけ控えめに、静かに足を踏み入れる。
「おい」
「!」
入室して速攻、会長に気付かれたが入っちまえばこっちのもんだ。えいや、と後ろ手で鍵を掛けてやる。幸い中には会長だけで、親衛隊の姿は無かった。
会長は来客用のソファに座っており、こちらを鋭く睨んでいた。しかし、会長の顔色は青白く体調がよろしくないのが見て取れる。体調が悪いなら保健室のベッドで休めばいいのに、何故会長室なんだろう。
「まだ集会は終わってない。戻れ」
「嫌だって言ったら?」
「人を呼ぶ」
それは困るな、と苦笑しつつ会長に近付く。近付く俺に会長が身体を強張らせるのが分かった。じっと俺を睨め付けていて、此方の様子を伺っている。なんだか会長、手負いの猫みたいだ。相手が攻撃してくる人間かどうか見極めている。……先に攻撃してきたの、会長の方なんだけど。
「鳳会長」
「………」
優しく会長を呼ぶ。ああ、だからなんであんたがそんな顔するの。まるで俺が会長に酷い事したみたいな傷付いた顔。会長は気が強いから、内心の怯えだとか戸惑いをおくびにも出さない。でもさ、俺は分かっちゃうんだよね。だって、会長の犬だから。……なんて。
「犬らしいことまだ何もしてなかったね」
近付くなオーラ出してるところ本当に悪いんだけど、今の弱った会長見ちゃったらさ。それなりにしてあげたくなるわけで。
会長の真隣に遠慮なく座ると、ぐんと肩を抱き横側に引っ張った。体調が悪いせいでまともに力が入らないのか、俺のされるがまま体勢を崩す会長。次の瞬間には、膝にずしりと感じる重みがあった。所謂、膝枕ってやつだ。そのまま逃がさないように会長の肩を押さえつける。
「なっ……!」
「ちょっと硬い枕だけど許してよ」
「ふざけるなっ、お前、こんな事してっ」
「あぁもう。身体に響くよ。会長、しぃー…」
当たり前に嫌がる会長だが、人差し指を口に当てて宥める。激しく抵抗する気力もないのか意外にもすぐに大人しくなってくれた。はぁ、と重たいため息が会長の口から漏れ出たのが聞こえる。横向きに会長が倒れているので表情は覗き込まなければ分からないけど、きっと苦々しい表情をしていることだろう。
「……何なんだお前は。意味が分からない」
「ご主人様の容態が悪い時に付き添うのは犬の役目かなぁって」
「ご主人様? ハッ、そんなこと微塵も思っていないだろ。都合の良いように大義名分を掲げるのはやめろ」
硬く吐き出される言葉。会長は続いて、交渉解約だ、と呟いた。
「……今を持って、お前は犬でも奴隷で無くなった。命が惜しければ直ちに、」
「会長の頬の痣、ちょっとだけまだ残ってるね」
「……ッ、」
会長の恨み言は聞こえないふり。頬にかかる髪を払いのけると、きめ細やかな白い肌に鬱血した青が微かに滲んでいた。よく見なければ分からない程度の痣だったけれど、会長の綺麗な顔に傷付けたのは、ちょっとだけ申し訳ないと思う。
硬く握り締めている会長の左手を取る。ゆるく開かせてやると爪が食い込むほど握り締めてたのか、手のひらに痛々しい痕が残っていた。労わるように撫でてから握り込ませ過ぎないように指を絡ます。すらりと長く滑らかな会長の手は綺麗だけど、とても──弱々しく見えた。
「飼い犬に手を噛まれた気分、だったでしょ。悪いね、俺、恋人第一主義だからさ。でも、今はあんたの犬だよ。犬として出来る範囲のことはしてあげる」
ピクッと会長の身体が揺れる。会長は俺に色々言いたいこととかあるんだろうし、俺も会長に聞かなければいけないことがあるんだ。
でも、今は──
安心させるように髪を撫で、耳元で囁く。
「おやすみ、会長」
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