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逃げ遅れたなと思った時には既に遅すぎて、身の危険は直ぐ目の前まで来ていた。
「簡単に壊れたつまんねーだろ」
飛ばされてきた少年の後を追うかのように、ケラケラ甲高く喉を鳴らし愉快に教室へと歩いてきたのは他校の制服を着こなす男。
整った顔にスプレーとワックスで整えられた金色オールバック、両耳には数えきれないピアスと痛々しい口ピアス。
顔と他が絶妙なハーモニーを奏でて、痛々しいほどアンバランスなその姿に、スズヤは「あれを素材の無駄遣いと言うんだな」と感心してしまう。
不良は不良でも、ピアスは両耳一つずつ、黒髪を貫き通すリクトの方が自身の素材を上手く利用できていると断言できるものだ。
さて、スズヤは問題の相手を把握することは出来たが、肝心の生徒を助けるべきか助けないべきか、これらは深い悩みどころであろう。
飛んできた生徒は少なからず他校生徒の標的になったであろう生徒。あのように頭のネジが何本も外れた相手に自ら敵となりに行くのだ、助けようとすれば自身も目を付けられ面倒事となる。
だが、一応人として生活している身分。見捨てれば人間性として疑うが、そもそも考えてみれば体の弱いスズヤが出しゃばれるほど、喧嘩は強く無い。
現在、自身の身を守ることで精一杯であるというのに、これ以上身の危険を増やすことは無いのではと考えてしまうスズヤは人としては最低かもしれない。
だが、自身の世界が少しずつ壊れる景色などもう見たくは無い、自身で壊す必要も無い。望んですら無い、ただ平凡を強く望んでいるのだ。
スズヤは巻き込まれぬよう、なるべく音を立てずに立ち去ろうと、後ろの引き戸に手をかけるが「お、やっと見つけたリクトのアルビノ弟君」と男から言われ、終いに男が近まで歩いてくる姿を確認できた時には、久しぶりに世界の崩壊を感じた。
口振りからすれば、標的は元々自身であると言っており、そして原因はやはり読み通りリクト自身。
『誰かに喧嘩吹っかけられたりとか、そっちの話し聞いてんだ屑が!』
珍しく話しかけ、珍しく兄貴ヅラした意味ここで知り、原因を理解した途端に暴言の一つや二つ言っておけばよかったと今更ながら後悔する。
むしろ、あきらか行動がおかしい中で気にとめなかたった過去のスズヤにも怒りを覚える。
「何か俺に御用ですかね」
「むしろ、用が無かったらここに来ないよな」
「確かに、そうとうな阿保か馬鹿で無いかぎり用無く授業中に奇襲する人間なんている訳が無いですよね」
「ずいぶんとお前、肝据わってるのな」
昭和臭のする台詞に、お前生まれてくる時代間違えてるぞと心で伝わらない忠告をお返しする。
何をやろうが、最終的に通る道は同じであろう。ならば、ぺこぺこ頭を下げる必要性など無い上に、その道から逃げ切れる自信など無い。
ただ被害を大きくせず、この場を静められる可能性があるのであれば、これから来るであろう【奴】が来るまで時間稼ぎ出来る人間が必要だと言うことであろう。
それがたまたま、体弱く喧嘩も弱い【スズヤ】しかいなかったと、それが今広がる現実であった。
面倒くさいことを嫌うスズヤにとっては今後のことを考えれば頭の痛い現実である。
「まわりの人間を見てみろよ、あの怯えた姿を」
ふいに言われたその言葉のち、廊下でこちらの様子を怯えた目で見物する生徒達をクイッと顎で指す。
先ほどの威勢など朝潮のように去り、腰は何時でも逃げる準備にとりかかっている。この問題児達を短時間で黙らせたのだ、この男はどれだけの事を起こしたのだれうか。色々可能性のあるものが脳内でビジョンされるが、途中まで考えた後にあまり考えたくは無いなとスズヤは首を横に降る。
「なのによーお前は冷静なんだよ、この状況で」
「お褒めの言葉どーも」
「はっ、体がひ弱だからと言って、心も弱い訳では無いっていいてーか?」
何か気に障ったのであろうか、男の手のひらが伸びる。
それと同時にスズヤ殴られるのだと心を構えたが、男は親指と人さし指で力一杯頬を挟み無理やり首を持ち上げさせる。
身長の伸びが悪かったスズヤは男との身長差が大分有り、首に多少負荷がかかる。
「ムカつくんだよな、生きる事を諦めてるその目、表に決して出さず、だが奥深くで何かを恐れているその目。兄弟ってのはここまで似るもんなのか?」
何が言いたいのかと尋ねようと口を開くが、喉まで出かけていた言葉は一瞬で砕け落ちる。
お腹に鋭い痛みを感じたかと思えば、次は顔、次は頭。口の中で硬い何かが転がっていると思えば、どうやら歯が折れたようだ。
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